[本を読む]
百歳超の哲人宰相マハティールが日本に伝えたかったこと
本書は、ルックイースト政策で日本を高く評価したマレーシアのマハティール・モハマド元首相から日本人へのメッセージである。単純な日本礼賛の書ではない。意外なことに「日本にはムスリムがいないのにイスラムがある」のはなぜかという宗教的な問いに基づく文明間の共生に向けたメッセージなのである。
マハティールは1925年生まれだから百歳を超えている。マレーシアがイギリスの植民地から日本の支配を経て独立する過程を少年時代に経験した。多民族・多文化国家マレーシアの統一を志し、1981年にはUMNO(統一マレー人国民組織)を率いて首相に就任した。93歳で再び首相となり95歳で退任したがその後も発言を続ける超人的政治家である。
彼は、英国による植民地統治の狡猾さも、日本の支配の残虐性も知り尽くしている。それでいて日本の戦後復興を高く評価したのは、規律、勤勉、清潔、正直などの日本人の特性が、イスラムの教えに通底すると確信したからである。1981年にルックイースト政策を始めた3年後、彼は「イスラム的価値浸透政策」を実施した。
非ムスリムにイスラムを強制せず、マレーシア社会に日本の特性をイスラム的価値として取り入れようとした。マハティールはイスラム的価値が近代化や発展を阻害するとは考えない。脱宗教を進歩と主張する西欧の世俗主義がイスラムを貶めたことを厳しく批判する。自国の停滞をイスラムのせいだと非難するムスリムが現れると、欧米の知識人やメディアは彼らを英雄やヒロインに仕立てたからである。他方、一部のイスラム学者たちは
訳者の
内藤正典
ないとう・まさのり●同志社大学大学院教授、一橋大学名誉教授





