[本を読む]
正義のヒロインと狡猾な政治家がついに直接対決!
『医療Gメン氷見亜佐子』シリーズ第四作のタイトルは「正義のゆくえ」。「どういうこと?」と思って読み始めたが、今回〝正義の人〟亜佐子は自らの信条を貫く難しさに直面。しかも調査の過程で孤立してしまい、精神的に追い詰められる。ひと言で表すなら第四作は“亜佐子最大のピンチ”だ。
視点人物は亜佐子とこのシリーズで裏の顔をちらつかせてきた政治家・宇佐
三十八歳で独身、元外科医の彼女は厚生労働省・医務指導室の医療監視員。現場で正常な医療行為が行われているかを監視するのが仕事だ。亜佐子が異動してきた当初の医療指導室は、医療過誤が発覚しても、「警察が捜査に入るまでは待つべきだ」と言う職員が大多数。そんな中、猪突猛進タイプの彼女は危険を顧みず、隠された真実に辿り着こうと必死になり、不審な術中死や不必要な医療行為、ワクチン開発の際のデータ捏造などを調べていった。(『医療Gメン氷見亜佐子』シリーズ第一~第三作)
こうした数々の不正の陰に黒幕として見え隠れしたのが厚生族のドン・宇佐美。やり手の彼は与党の幹事長に就任した途端、亜佐子の味方になった職員たちを昇進という名目で異動させる。本来飛ばすべきは亜佐子、そして彼女に負けず劣らず正義感が強い先輩の
その訳がわかるのは宇佐美が視点になる章だ。「秘書は味方だが、時には一番事情を知る敵にもなりうる。敵になる恐れがある者は身近に置いておく。それが政治家を続けてきた中での掟の一つである」──つまり宇佐美は、秘書同様敵になるとやっかいな亜佐子を自分の目の届く範囲に置いて監視するという思惑らしい。不遜なほど自信たっぷりの宇佐美だが、それを支えているのは潤沢な資金源。彼は停滞していた医療行政にメスを入れる裏で、黙っていても懐に金が入るシステムを作っている。医療界と癒着して持ちつ持たれつの関係になり、力を蓄えてきたのだ。
このふたりに加えて今回視点となるのが、二十八歳の杉本星菜。シングルマザーに育てられ、現在は通信販売の会社で試用期間中の彼女は、トラック運転手の夫とふたり暮らし。夫婦仲はいいが夫に前科があり、金銭的にはギリギリの状態だ。体力面の不安もある星菜の心境が語られていく中、徐々にわかるのは彼女の前の結婚と過去に受けた手術に関係があるらしいこと。それが亜佐子や宇佐美とどうつながるのか、しばらくは皆目わからないが、宇佐美の元秘書の自殺をきっかけに少しずつ全体図のピースが埋まっていく。そしてすべてが明らかになったときには、あまりのむごさに背筋が寒くなって……。
最初に第四作は亜佐子最大のピンチと書いたが、物語が進むにつれ彼女はどんどん窮地に立たされる。「……手を引かなければ、あなたの恩師(
条件の重さに胸を痛めながらヒントの意味を探っていくが、津舟とマナカナに地検とのつながりを知られて裏切り者呼ばわりされる亜佐子。アラフォーになって初めて「仕事を通じて信頼し合える仲間は違う」と気づいた彼女にとって、戦う同志ふたりが去った喪失感は大きかった。加えて、いつも励ましてくれる利恵が思わぬ事態に陥っていたから、亜佐子の苦悩の色は濃い。宇佐美と大久保がなかなか尻尾をつかませない中、どうする、どうなる、亜佐子⁉
ラストに向かって伏線が見事に回収されていき、物語は意外な形でひとまず幕を閉じるが、私の考察は止まらない。第四作で初めて詳しく明かされた宇佐美の家庭の事情がこれからの展開につながるのでは? だって、あまりにも怪しい人物が……。
シリーズを通して感じるのは、亜佐子の芯にある正義感の強さと命を大切にする医師としての矜持。だから目の前にいるのがたとえ難敵でも立ち向かっていくし、医師免許という武器は「どこでも生きていける」という底力につながっているよう。男社会にありがちな組織のしがらみや義理の貸し借りをぶっ飛ばす亜佐子の活躍を今後も読んでいきたい!
山本圭子
やまもと・けいこ●ライター





