[本を読む]
ワインで読み解くイタリアの大地の記憶
美しい本だ。写真を見るだけで晴々とした気持ちになる。なんと著者⾃⾝の撮影によるという。それぞれの⼟地の微細な温度や湿度や地形まで伝わってくるので、ページをめくるたびに、これらの風景の中でワインを飲みたくなる。
著者はソムリエでもある。そう聞くとワインに等級をつけたりするのだろうと思ってしまうが、そうではない。これは「ワインの本」ではなく、イタリアワインの「歴史と⽂化の本」なのである。さらに言えばそれぞれの「土地の本」である。そこに生きている人々と生産者たちの本である。だから深い。時に、歴史の話が続いて迷⼦になりそうになる。そういう時には、さっと地図が差し出される。そこで、⾃分が今どこの物語を読んでいるのか、すぐに分かる。
「鍵はコムーネにある」という。日本で言えば村落共同体だ。イタリアワインには6000年の歴史があり、それぞれの土地の「大地の記憶」が人の技でワインに移(写)されてきた。「寄⽊細⼯のピースを⼿に取って、⼊れ⼦の箱を開けていくように、地域の歴史に思いを馳せながら飲む」のがイタリアワインの飲み⽅だ、と本書で語られているが、まさにその通りだ。
私はワイン好きだ。好みが厳しい。しかしイタリアワインと出会い、ワインの魅⼒は好みに固執したらわからないと知った。
半島諸島に行き来する様々な民族、イタリアの農書の歴史、修道士とワインのことなど、読み進めるほど好奇心が深まり広がる。よくぞ、書いてくださった。
田中優子
たなか・ゆうこ●法政大学名誉教授





