[本を読む]
「終の棲家」は、始まりに満ちている
他人と住まいを共にするというライフスタイルは、若者の節約術や流行の一環として語られることが多い。しかし19世紀のユートピア思想を起点とするコレクティブハウスの系譜は古く、家事とケアを妻ひとりに負わせる構造について、共住という観点からその解体と再編を長いあいだ模索し続けてきた。これは家事とケアを誰が担うのかをめぐる戦いであり、その最前線には常に女性たちがいた。本書は、現在の日本における共住の到達点について、20年以上にわたってそうした住まいに暮らし続けてきた当事者による記録である。
舞台は日本初の本格的な多世代型コレクティブハウス、かんかん森だ。本書の読みどころの一つとして、まずは生き生きとした暮らしの描写を挙げたい。たとえば設立時、共用の食器選びが議論になった。食洗機の効率を考えれば、味噌汁もスープ皿で飲めばいいという考え方はあり得る。それでも選ばれたのは、普通の家庭で使うごはん茶碗と木のお椀であった。機能性だけではなく美しさやポリシーに満ちた暮らしの隅々は、このような膨大な話し合いを経て、一つひとつ形にされてきたのである。
とはいえ、ここに書かれているのは、支え合う共同体の美談には止まらない。かんかん森では家賃も食事の当番も世帯ではなく個人を単位としていて、妻が調理するから夫は免除されるという慣行はない。社会保障も住宅政策も「世帯」を標準に組み立ててきたこの国で、これはささやかだが根本的な挑戦である。同時に本書は、無償の助け合いに期待をかけすぎない。看取りや介護は介護保険と専門職に委ねるという、現実的な設計も示している。
巻末の上野千鶴子との対談では、この住まいは本当に
永田夏来
ながた・なつき●社会学者、兵庫教育大学大学院教授





