[本を読む]
ケアを〈コモン〉として取り戻すための必読書。
激務の合間に、風呂掃除、食事、洗濯などの家事を
私は高市政治を支持していないが、こうした批判については、なぜか同調する気になれなかった。その理由を明確に言語化してくれたのが、このデンマーク発のベストセラーである。
本書が批判するのは、「価格」がつかないものには「価値」もないとみなす、既成経済学の物差しである。ケアは生命を日々再生産し、あらゆる労働と経済活動を可能にする。にもかかわらずGDPに算入されない無償のケアは見えないものとされ、有償であっても低賃金の「コスト」として削減される。その負担を多く引き受けてきたのが女性である。
高市総理自身も、この矛盾の外にはいない。自民党で権力の頂点に上り詰める過程で家父長的な価値観を内面化し、「強い日本」と経済成長を掲げ、その一方で、私生活では介助や家事の重さを引き受けている。日本初の女性リーダーがあらわにしたのは、軍事や経済成長への投資を優先し、ケアを家庭と個人、とりわけ女性の責任へ押し戻すという古い家父長制の影である。それがいいはずがない。その一方で、高市氏を批判する者は「外注すればよい」「金で解決せよ」と突き放した。それにも私は同調できなかったのだ。
必要なのは、家事を外注して「強い」個人を求めることではないはずだ。ケアを家族(と女性)の自己責任にせず、サービスとして買える人だけが利用できる商品にもせず、第三の道として、ケアを社会の〈コモン〉(共有財)として引き受け直すことだ。それは、国の政策レベルでもコミュニティの共同プロジェクトでも、一斉にやるべきことである。
『女性は社会の「赤字」なのか?』という挑発的な問いに、本書は明快に答える。赤字なのは女性ではない。命を支えるケアを不可視化し、〈コモン〉を切り崩す経済と政治の方だ。ケアの危機が深刻化するなか、立場を超えて、今こそ多くの人に読んでほしい。
斎藤幸平
さいとう・こうへい●経済思想家





