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青柳いづみこ『ショパン・コンクールよ、どこへいく』(集英社新書)を恩田陸さんが読む

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揺れ動いている悩み多き「生き物」

 あまたあるピアノコンクールの中で最も有名で、上位入賞者のピアニストとしての将来が最も拓(ひら)ける、五年に一度のショパン・コンクール。この本は、プロのピアニストであり優れた書き手でもある著者による、二〇二五年の第十九回大会をめぐるスケッチである。
 ピアノコンクールの配信が当たり前になったのは、いろいろ功罪はあれど、今のところ利点が勝(まさ)っているのではないかと思う。すべてのコンテスタントの演奏を気軽に聴けることで、コンクールがショーケースの役割を果たし、入賞者以外でも音楽活動のきっかけになる事例が増えたからだ。同時に、本来比べようのないものに優劣をつけるという、コンクールの矛盾と限界も露(あらわ)になった。著者は十年来のウオッチャーで、ショパン・コンクールが常に揺れ動いている悩み多き「生き物」であることを活写している。
 たとえば、ショパンの曲のみを演奏するコンクールだけあって、「楽譜に忠実派(もっとも、何をもって『忠実』とするか、でも意見が分かれる)」か「オリジナル解釈派」かという演奏スタイルによる評価のゆらぎ。そして、毎回問題になる採点方法。第十九回大会では、従来次のラウンドに進めるか「YES/NO」の数で判定していたのを、点数制にした上、その数字に複雑な補正を加えることになったため、平均点の高い者が残って個性的な者が落ちてしまったのではないか、と危惧されていた。むろん、よかれと思っての変更なのだろうが、いかにコンクールの採点が難しいか、今も模索を続けていることが分かる。
 個人的には、小さな音楽事務所のマネージャーたちをクローズアップしている章が興味深かった。「優勝したからマネジメントする」のではなく、自分が聴いて真に支えたいアーティストのみをマネジメントする、という態度には希望を感じた。兼業で活動する音楽家、配信のみでやっていく音楽家など、多彩な音楽活動が可能になった今、コンクールの役割も更に多様化していくのではないだろうか。

恩田 陸

おんだ・りく●作家

『ショパン・コンクールよ、どこへいく』

青柳いづみこ 著

発売中・集英社新書

定価1,210円(税込)

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