[解説]
人物史の玉手箱
『アジア人物史 別巻 人名索引・便覧』と『『アジア人物史』月報集成』の刊行に当たり、編集委員のおひとり三浦徹氏に、索引と月報の楽しみ方をテーマにご寄稿いただきました。
集英社創業九五周年記念企画『アジア人物史』の一二巻の船団が完結して二年、いまここに二つの玉手箱が届けられた。『『アジア人物史』月報集成』という新書と『アジア人物史 別巻 人名索引・便覧』である。
新書は、各巻に挟み込まれていた小冊子をまとめ直したもので、姜尚中氏と各巻の編集委員の対談、作家・識者の特別寄稿、編集後記からなる。対談は各巻の時代と人物の陰陽を語るもので、第八巻では、中国近代の周縁にいた
索引巻は、本巻完結から二年、私はその刊行を心待ちにしていた。人名索引に加え、全巻の目次・図版・参考文献・執筆者の一覧がついている。人名索引は、二六七頁にわたりヒトの名前と数字がみっしりと組まれ、収録される人名は一万四千に及ぶ。先頭のアーイシャは、イスラームの預言者ムハンマドの愛妻で、彼の言行を後世の人々に伝えた。最後の
この索引は、本巻(本文)に出現する「人名」をほぼすべて拾い出し、網羅している。その特徴は、ひとりの人物のさまざまな名前(呼称)をひとまとめにしていること。足利義満の項目には、
索引の醍醐味は、「横断」検索にある。後白河院や源頼朝の項目に第一巻(神話世界と古代帝国)の頁があり、両者はアショーカ王にならって八万四千の経塔の製作を行ったという。アショーカ王の索引からは、一八世紀にスリランカを統一した国王キールティ・スリー・ラージャシンハ(自身はヒンドゥー教徒)が、アショーカ王の理念を掲げ、上座部仏教の復興に尽力したことがわかる。
宗教者は、時代・地域を越える。イエスは、一九世紀末スマトラの呪術師ソマラインに顕現した。
欧米の人名から、彼らとアジアとの関係を引き出せる。アリストテレスは、朝鮮実学において朱子学と重ねて「西学」として受容され、インドのラームモーハン・ローイは、アリストテレスやユークリッドをアラビア語テキストで学んでいた。明治初期に加藤弘之は、アリストテレスの学説を引きながら、「公明正大なる国体」を論じた。女性の項目や引照が少ないが、第一〇巻(民族解放の夢)では六つの章が女性の運動を主題にしている(朝鮮、インドネシア、インド、中央アジア、アラブ、日本)。
本巻を机の周りに並べ、索引を引きながら、多くの「発見」があった。分厚い本巻の造本は丈夫で軽く、拾い読みにも適している。新書の巻頭言で姜氏は、アジアの歴史をタペストリーにたとえ、「縦糸と横糸がいわば斜めに交錯し、その交錯の角度によって多様に異なる模様が浮かび上がってくる」と述べる。この別巻・人名索引と新書は、交錯する糸をたぐるナビゲーターであり、これによって私たちはいま、人物が織りなすアジアの歴史の重層と人の生へと分け入る。
みうら・とおる●お茶の水女子大学名誉教授、(公財)東洋文庫研究員






