[本を読む]
最先端のワクワクと戸惑いの狭間で
この世界にイヌがいて本当によかった、と日々思いながら暮らしている。彼らは、我々をポジティブな世界へ導く天才だ。なんだかんだあっても、私が心身つつがなく暮らせているのはおそらく愛犬のおかげだし、鋭い嗅覚で行方不明者を無事発見したという“お手柄警察犬のニュース”は、閉塞感と不安だらけの昨今の世の中に燦然と輝く太陽といっても大げさではない。
なぜ、イヌは我々に寄り添ってくれるのか。本書は、そんな唯一無二の動物の性格の遺伝的基盤と進化の解明に挑むためにタッグを組んだ、動物心理学と行動遺伝学を専門とする二人の気鋭の科学者による最先端の研究報告書だ。イヌが祖先のオオカミから脱したポイントは、恐怖心と攻撃性の低下、そしてアイコンタクトだという。それに応じて上昇した好奇心と社交性によって、彼らが“人類の最良の友”になった経緯が見えてくる。
特に興味深いのは、日本犬に関する事実だ。世界中から集められた数多くの純血種の遺伝子試料の全ゲノムを網羅的に解析すると、遺伝的にオオカミに近い「古代犬種」とヨーロッパ原産などの「現代犬種」に分類され、日本犬は前者に属するという。日本犬は独立心が強くトレーニングが難しいといわれるが、そもそも人為的選択により遺伝改良された洋犬とは違うのだとわかると納得できる。アイコンタクトの頻度が少ない日本犬は、まるで日本人のようでもあり、共に歩んだ歴史に思いを馳せた。
最先端科学による謎解きにワクワクする一方で、このテーマに深く踏みこむことへの戸惑いも覚えた。それは著者も指摘していることで、イヌの性格は遺伝だけで決まるわけではなく、環境との相互作用によるという。ヒトとの遊びへの関心度など、犬種による性格特性の違いはあるものの、性格を総合的に評価できる段階ではないとわかり、むしろ少し安堵した。
ともあれ、イヌの生活環境を左右する最大要因はヒトである。有り余るものを与えてくれる彼らの本質を把握することで、我々に何ができるのか。再考のきっかけにしたい。
片野ゆか
かたの・ゆか●ノンフィクション作家





