[インタビュー]
SNS時代の不透明な人間関係が
謎と混乱を呼ぶミステリ
SNSで名指しで放たれた「死ね」という言葉。もし、それが現実の殺人事件の引き金になったとしたら?
『同姓同名』では登場人物が全員同姓同名、『ネタバレあり 双紋島の殺人』では冒頭で七つのネタバレが読者に示されるという前代未聞の小説を世に放ち、読者を驚かせてきた下村敦史さん。
最新作『あいつも誰かに殺される』は、SNS上で罪を告発された人物に対して「タナトス」を名乗るアカウントが死を宣告し、その通りになるというミステリです。SNSで拡散される情報がパニックを生み、群集心理が暴走するなか、事件は連続して起きていきます。
デビューから十二年。『あいつも誰かに殺される』で早くも三十一作目となる下村さんに執筆の舞台裏を聞きました。
聞き手・構成=タカザワケンジ/撮影=藤澤由加

「死ね」という言葉が凶器に変わる
──SNSを題材にした作品は数多くありますが、『あいつも誰かに殺される』はありそうでなかったアイデアですね。そして、怒濤のクライマックスが圧巻でした。「小説すばる」に連載された作品ですが、どのような経緯でスタートしたのでしょうか。
きっかけは担当編集者から「下村さんに書いてほしいアイデアがあるんです」と提案されたことでした。「SNSに『××死ね』と投稿されたら、名指しされた人がどんどん殺されていく物語はどうですか」と言われて、すぐに「なるほど、SNS版の『DEATH NOTE』みたいな設定ですね」と話が弾んだんです。「その設定なら、捜査する警察、死ねと書かれた人、書いた人、書こうとしたけれどできなかった人……。そうした多角的な視点で、キャラクターの視点を切り替えながら物語を盛り上げていけますね」とトントン拍子で方向性が決まったのですが、肝心の「誰が、何のために、どうやってそれをやっているのか」という真相部分については、「それは下村さんが考えてください」と(笑)。
──そこからが下村さんの腕の見せどころだったわけですね(笑)。
まあ、そうですよね(笑)。そこで、まずは「誰が、何のためにやったのか」を考えました。パッと思いつくのは
──冒頭から、警察署に大勢の人が押し寄せるパニック状態が描かれます。
事件がある程度進行している状態をプロローグに持ってきたかったんです。「パンデミック映画」や「ゾンビ映画」のような混乱状態をまず見せたかった。
「え、一体どんな大事件が起きてるんだ?」と読者の興味を引いたうえで、プロローグの最後に「SNSで『死ね』って書かれたのよ!」という、めちゃくちゃ落差のあるセリフをぶつける。そのギャップで読者の心をつかみたかったんです。
実際に今のSNSを見ていると、「死ね」という言葉は日常的に飛び交っていますよね。それが本当に実現してしまったら──という、身近でありながら、なおかつリアリティのある恐怖を起点に物語を広げていこうと思いました。
実際、誰がどういう理由で選ばれているのかがわからずに殺されていくって恐ろしいですよね。
不可視の関係が恐怖を広げる
──下村さんは初期の頃、プロットを綿密に立ててから執筆されていましたが、その後はあまり決めずに書かれることも多いとお聞きしています。本作はどうでしたか。
真相部分に関しては、しっかりつくってから臨みました。誰が被害に遭って、誰が関与して……といったロジックはさすがにしっかり決めないと物語が崩れてしまいますから。
ただ、読んでいて感じていただいたかもしれませんが、この物語には至るところにミスリードが仕掛けられています。「この人は何か重大な秘密があるのではないか」と思わせておいて意外とそうでもなかったり、逆にモブキャラが実は重要だったり。
今回は事件の性質上、事件の関係者全員が深く繫がっていると物語が狭くなってしまうので、関係しているのかしていないのかよくわからない人も出しつつ、事件の規模を大きくし、恐怖を拡散させることを意識しました。
──SNS時代らしい関係性の絞りきれなさが物語を面白くしています。誰と誰が繫がっているかわからない。この時代の不透明な人間関係を感じました。
こういう事件が起きたときに、SNSを含めた世の中で起こりそうなことを取り入れていきました。「小説すばる」連載時には「迷惑系ユーチューバー」が登場するエピソードもあったんです。SNSで予告殺人を行うタナトスをおびき出そうとし、警察が混乱するという。長くなりすぎるので、単行本にするときにカットしましたけど。
──いろいろなアイデアがあったんですね。広がっていく恐怖の一方で、物語を支える軸として、刑事の
まったく考えていませんでした。僕としてはオーソドックスな刑事コンビだと思って書いていただけです。でも、意外と担当編集者が気に入ってくれたみたいで、「またこの二人を登場させましょうよ」って言ってくれますね。特別なキャラ付けみたいなことはしていなくて、とくに個性的というわけでもないと思うんですけど、気に入ってもらえる何かがあるのかもしれません。
──個性的ではないと言っても、直接的に書いていないだけで、何かありそうだなという匂わせみたいなものはありますよね。そこが気になるところです。
虹ヶ谷をミステリアスな人物に、音羽は読者が共感できるようにとは思いました。そのために虹ヶ谷はプロローグ以外に視点人物にはしないようにして、音羽は過去を丁寧に描くことで、視点人物としての役割を明確にしています。ほかにも〝えびす”というあだ名で呼ばれている警察官・
「BeReal」よりも厳しいSNSが舞台に
──事件は写真投稿型のSNS「リアリズム」で起きます。「裏切り者の詐欺師の鈴木健三、死ね!」という投稿を受けて、タナトスと名乗るアカウントが「お前の望みどおりタナトスの影が覆い、鈴木健三には無残な死が訪れるであろう」と死を宣告します。そして実際に鈴木健三という人物が亡くなってしまう。「リアリズム」は一日に一回、ランダムなタイミングで通知が届き、アプリを立ち上げたら自動的にカメラも起動します。通知が届いてから十秒以内に写真を撮らなくてはならなくて、撮影した写真は〝今日のリアル〟として自動で投稿されるという、かなり厳しいルールのSNSです。作中でも触れられているように「BeReal(ビーリアル)」に似ていますが、このアプリの設定はどうやって考えたんですか?
実は、企画の打合せをした当時は「BeReal」の存在を知らなかったんです。打合せで、SNSを舞台にしたミステリという話をしていたら、若い担当編集者が「下村さん、『BeReal』って知ってますか」と教えてくれて。説明を聞いて「え、何それ怖い」って(笑)。下手をするとプライバシーが強制的にさらけ出されかねないSNSがあると聞いて、「これを物語に出せないか」という話になりました。
「BeReal」は毎日ランダムな時間に届く通知から二分以内に、インカメラとアウトカメラで同時に撮影した無加工の写真を投稿するというルールです。「リアリズム」のようにアカウントが消されるようなペナルティはありませんが、小説では架空のSNSとしてさらに厳しいルールを設定し、事件が起こりやすくしました。
驚いたのは、連載が終わった直後に、「BeReal」のユーザーが立て続けに職場の情報漏えいを起こしたことです。それをきっかけに「X」などのSNS上で「『BeReal』って何だ?」とバズったので、すごいタイミングだなと思いましたけど。
──情報漏えい事件よりも前に下村さんが『あいつも誰かに殺される』を書いていたのは強調しておいたほうがいいですね。リアルな日常をテーマにしたSNSで予告殺人が起きるというのは本当に不気味です。しかもその予告された人物が「鈴木健三」のような同姓同名が多そうな名前なので、特定が難しい。下村さんの代表作の一つ『同姓同名』を思い出す読者も多いでしょう。
この事件にふさわしい真相と動機を用意するところから考えていったので、犯人像も自然と見えてきました。そこから被害者をどのような人物に設定するかを考えたんですが、SNSで名前をさらされるわけですから、「全国の同姓同名の人物をどうやって守るのか」という難問に警察が直面するのも当然でした。
──ミステリ作家の方にインタビューしていると、登場人物の名前を考えるのが大変だと時々うかがいます。犯人や被害者と同じ名前の方が不愉快に思うんじゃないかと。そのことを回避するために変わった名前を考える方もいますが、逆に下村さんの作品の場合は同姓同名がたくさんいそうだから、かえって気にならないのかもしれません。名前はどうやって決めているんですか?
名前に関しては本当にいろいろですね。たまたま何かの記事で見かけた名前から、名字の一字、名前の一字をいただいたり、検索サイトで探したりもします。過去に自分の作品で使ってないはずの名前をつくるようにはしています。
意識しているのは読者にちゃんと憶えてもらえる名前にすること。「山田さん」や「田中さん」ばかりだと憶えにくいので、少し特殊な名字を混ぜて差別化を図っています。漢字二文字の名字が多い中に、三文字の名字を入れるとかですね。主人公の名前には、ちょっとかっこいい名前を選んだりはします。「虹ヶ谷」という名前も、キャラクターと合っていて、読者の記憶に残りそうだなと思ってつけました。
──クライマックスでその虹ヶ谷刑事と犯人との間の熱い攻防が繰り広げられますが、書くことにエネルギーを使ったのではないでしょうか。
熱を持って書かないと読者に届きませんから。ヒントになったのは、
もしもあなたが恨まれていたら?
──予告通りに人が死んでいく一方で、SNSが盛り上がり、殺人事件を観客として楽しむグロテスクな状況が描かれています。犯人は誰かというミステリとしての面白さと、社会的にどんな影響があるかというシミュレーションとしての面白さ。その両方がこの作品の魅力ですね。
それが狙いでした。そのために一人の視点にこだわらないようにしたので、かえって物語は書きやすかったですね。SNSをめぐる現代を象徴するような物語にしたかったので、いろいろなエピソードを書けたことはよかったと思います。
──登場する人物それぞれがいじめや貧困、誹謗中傷、ルッキズムなど現代人が抱える問題に直面しています。
登場人物全員に対して言えることですが、彼ら、彼女らは僕がSNSで何百、何千と見てきたいろいろな投稿から感じた「リアル」そのものです。もしも読者が登場人物の言動に不愉快なところがあれば、それは実際に起きているSNSの悪い部分だと考えてほしいです。
実際、SNSを見ていると危険な投稿がたくさんあるんです。誰かをつるし上げるような、小馬鹿にするような、もしも当人がそれを見たら絶対に恨むだろうなという内容です。見ていて、もしその投稿がバズったら相手に気づかれるんじゃないかと心配になります。相手が気づいたらどうするんだろう。『あいつも誰かに殺される』も、もしも自分がSNSで誰かを非難して恨まれたり、その逆に非難される立場になったら……と想像しながら読んでほしいですね。

下村敦史
しもむら・あつし●作家。1981年京都府生まれ。
2014年に『闇に香る噓』で第60回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。著書に『黙過』(徳間文庫大賞)『生還者』『失踪者』『告白の余白』『刑事の慟哭』『絶声』『同姓同名』『白医』『ロスト・スピーシーズ』『口外禁止』『暴走正義』『暗闇法廷』『ネタバレあり 双紋島の殺人』等多数。





