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中村敏子『選択的夫婦別姓はなぜ日本を変えるのか』(集英社新書)を森野 咲さんが読む

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協働的な「家族」を構築し直すきっかけに

「令和何年になったらこの国で夫婦別姓OKされるんだろう」と宇多田ヒカルが「Mine or Yours」の中で歌うのを聞いて、私は幼い頃の母との会話を思い出していた。大人になる頃には、きっと法律も変わっているだろう。そう信じていたのに、憲法に「男女平等」が掲げられて久しい現在も、結婚時に多くの場合、女性が改姓をいられる戸籍制度はしぶとく残り続けている。「家族の一体感」を掲げて選択的夫婦別姓へ反対することは、いまや日本保守の試金石だ。
 本書は、単に日本の家制度の歴史を解き明かすのではない。それは、著者が日本社会に残る女性差別の構造へ踏み込むなかで、必然的に対峙せざるをえないものである。重要なのは、私たちが伝統だと思い込まされている「家制度」が、実は近代以降、日本の家族の実態から乖離して輸入された「イデオロギー」だったという指摘だ。戦後、「父」が解体されても「夫」は残り、日本型企業の男性稼ぎ手モデルとともにこの構造はいっそう強化された。強制的夫婦同姓制度は、日本の政治・経済モデルと強固に結びついている。
 著者はさらに、明治民法以前の「家」が、国家に強制された家父長的単位ではなく、企業体のような自治的共同体であった「伝統」に目を向ける。大ヒットドラマ「逃げ恥」でも、みくりと平匡ひらまさは家族を「企業」になぞらえて平等な共同生活のあり方を模索していたが、本書を読むと、選択的夫婦別姓はそうした協働的な「家族」を構築し直す契機になりうると、納得できる。
 本書の後半では、いまや夫権的家父長制の「本家」フランスでも、PACS(民事連帯契約)など自由な結合関係を模索する動きが広がっていることが紹介される。私自身、フランスで暮らすなかで、結婚してもしなくても家族は築けるという考え方が定着していることを感じている。企業の福利厚生が事実婚を対象に含むことも珍しくない。保守派はよく「文明の終わり」を嘆くが、むしろ、こうした制度の柔軟な発展こそが「文明」であってほしいと願う。

森野 咲

もりの・さき●パリ第8大学哲学科学生

『選択的夫婦別姓はなぜ日本を変えるのか』

中村敏子 著

発売中・集英社新書

定価968円(税込)

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