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西澤保彦『走馬灯交差点』(集英社文庫)を末國善己さんが読む

[本を読む]

人格転移への新たな挑戦

 二〇二五年十一月九日、西澤保彦さんが逝去された。六十四歳のあまりに早すぎるお別れだった。
 西澤さんは、現代日本を舞台にした傑作を数多く発表しているが、タイムループが起こる、超能力が実在するといった現実世界とは異なるルールで動いている世界で発生する難事件を、その特殊なルールを前提にしたロジカルな推理で解明する特殊設定ミステリの先駆者としても高く評価されている。その代表作が『人格転移の殺人』である。西澤さんが人格転移に二十七年ぶりに挑み新機軸を打ち立てたのが、本書『走馬灯交差点』である。
 本書は章ごとに語り手を変えているので、章が変わるごとに状況が目まぐるしく変わり先が読みにくい。描かれる事件も、殺されて人格が別人に転移した刑事が自分の死の真相を追う展開もあれば、完璧に死体を隠そうとする倒叙ミステリや、あやつりを思わせるトリックもあるなど多彩で、これらの事件がどのように絡むのかも見えてこない。そこに人格転移が加わるだけに、物語は複雑に入り組んでいく。ただこれは、エキセントリックな登場人物が織り成す愛憎劇が真相を隠すブラインドになる坂口安吾『不連続殺人事件』に近く、緻密に計算されているので再読すると西澤さんの意図がよく分かるだろう。
 特殊設定ミステリは、推理に必要な特殊設定を事前に提示しないとアンフェアと批判される。ただ本書は、人格転移のルールには曖昧なところがあり、人格転移した登場人物が設定そのものの謎に挑むルール探しの要素もある。現実的な殺人の謎、人格転移の謎が連続するどんでん返しとともに明らかになる終盤の展開には、特殊設定ミステリを読み慣れた読者も圧倒されるはずだ。
 また幾つかの家族が抱えるトラブルを描き、人格転移の能力を子孫に伝える一族を登場させることで、家族とは何かを問うたところは、家族のあり方が多様化している現代へのメッセージとなっており、社会派ミステリとしても秀逸である。

末國善己

すえくに・よしみ●文芸評論家

『走馬灯交差点』

西澤保彦 著

発売中・集英社文庫

定価1,056円(税込)

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