[本を読む]
「つらさ」を個人の弱さに還元せず
知識と技法によってすくい上げる
現代の職場はストレスに満ちている。そのストレスのあり方も多様であり、かつ重層的である。職場のモザイク化が進んでいる。プロパーだけでなく、中途入社も増えているし、男女比も改善され男社会から脱している。年齢層はもちろん、国籍も多様になっている。寿退職は死語となり、育児、介護、さらには自身の闘病と向き合いつつ働き続ける時代となっている。そのこと自体は決して悪いことではない。ただ、様々な属性の、多様な事情を抱えた人がともに働くがゆえに、利害関係の衝突や摩擦が生じている。
著者は公衆衛生の専門家である。旧ユーゴ紛争、東日本大震災に福島原発事故、新型コロナウイルス感染症危機などの公衆衛生上の緊急事態についての研究や支援活動で得た経験を、健康的な職場づくりに応用する活動に四半世紀にわたり取り組んできた。その知見を惜しげもなく披露する。これは救国の書だ。
人間関係に悩んだとき、難しい決断を迫られたとき、価値観の違う相手と向き合うとき、人生の意味を見失いそうになったときにどうするか。感情論ではなく、体系化された理論と、具体的なアクションが重要だ。そして、それは単に職場で傷つかないためだけでない。自分が望む人生に向けて主体的に歩むためのものだ。
フィクション化された具体例と、それを読み解く理論、さらには具体的な対応法までセットになって提示される。「そうそう」と
メンタルヘルス問題による休職を、私は何度も見聞きしてきた。私自身も当事者だ。もっと早くこの本に出合いたかった。これは、働く人を甘やかす本ではない。つらさを個人の弱さに還元せず、知識と技法によってすくい上げる本である。この本は、「つらい」で満ちている我が国がいま必要とする支援物資だ。我慢するな。この本でのりこえよう。
常見陽平
つねみ・ようへい●千葉商科大学教授





