[本を読む]
社会の圧力が招く孤立を鋭く描き出す
二十世紀の傑作
孤独とは人の数によって埋められるものではない。むしろ寄り集まった人びとの輪が、社会という名の圧力が、しばしば風下にいる誰かを孤立させ絶望へと追い込んでいく―。なにかを言いさして止めたような、妙に心に残る本書のタイトルからして秀逸だ。苦渋や挫折、諦念にふちどられた個人の生がそこここで立ちあがってくる気配がある。
没後数十年を経て再評価が進んでいる、二十世紀ポルトガル文学を代表する女性作家の作品集。一篇読むごとに深々とため息をついてしまった。文章の美しさはもちろん、どれも半世紀以上も前に書かれた物語にもかかわらず、描きつけられた情景のあまりの鮮やかさと生々しさに打ちのめされてしまうのだ。
表題作は、身寄りもなく財産もない、もう若くはない女が病院で余命宣告を受けるところから始まる。ふいに迫られることになった人生の
当時カトリシズムを利用した独裁政権の影響下にあったポルトガルでは、教会で結婚したカップルの離婚は認められていなかった。ただ役所に書類を提出するのみに留めた夫とマリアナの選択からは、個人の尊厳と自由を求める先取的な男女の姿が垣間みえる。だが夫はのちに別の女に惹かれ、今度は教会で式を挙げてしまう。残されたマリアナがたどった道のりには、異物を忌み嫌う世間の酷薄なまなざしが貼りついている。
本書には九つの物語が収められているが、年齢を重ねた女を社会が切り捨てる様子が何度も繰り返される。他にも、組織の歯車となって労働を繰り返す毎日に消耗している男たちがいる。男たちの「妻」や「母」として社会から不可視化される女たちがいる。ジェンダー、毒親、モラルハラスメント―訳者あとがきにも書かれているとおり、まだそんな言葉などなかった時代から、みごとに核心をとらえて物語として紡ぎだす手つきの鋭さに惚れ惚れしてしまう。いまを生きる読者の胸にもまっすぐに届く傑作だ。
倉本さおり
くらもと・さおり●書評家





