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ナツイチ対談/本文を読む

新庄 耕×結城真一郎
小説はまだまだいける。夢がある。
新庄耕『地面師たち』、結城真一郎『難問の多い料理店』(集英社文庫 ナツイチ2026)

[ナツイチ対談]

小説はまだまだいける。夢がある。

代表作『#真相をお話しします』が昨春実写映画化され興行収入二〇億円超えの大ヒットとなった、ミステリー作家の結城真一郎さん。フードデリバリーとゴースト・レストランを題材にした新たな代表作『難問の多い料理店』が、この度、文庫化された。新庄耕さんもまた、土地の所有者になりすまして代金を騙し取る詐欺集団を描いた『地面師たち』が二〇二四年にNetflixでドラマ化され、社会現象を巻き起こすヒット作となった経験の持ち主だ。映像化により躍進を遂げた二人の作家が、小説と小説家の未来を語り合った。

構成=吉田大助/撮影=山口真由子

結城 僕の妻はほぼ本を読まなくて、会話の中で小説の話題を出しても常に無風なんです(笑)。でも、「今度『地面師たち』の原作者の方に会うよ」と言ったらむちゃくちゃテンションが上がったんですよ。あのドラマはそれだけの影響力があったんだなと思って、感動しました。

新庄 ありがたいですね。今はメディアが多様化して娯楽も増えまくって、可処分時間の取り合いじゃないですか。本を読んでもらうことが難しい時代だからこそ、他のメディアとうまく連携して本を届けなければいけないと思っています。まぁ、僕が『地面師たち』のドラマに関して何かやったことがあるかと言えば、大根さん(※映像化の企画を立案し、脚本・監督も手がけた大根仁)に「全てお任せします」と言っただけなんですけど(笑)。結城さんは『#真相をお話しします』が映画になった時、原作者としてどんなスタンスだったんですか。

結城 簡単な脚本のチェックだけはして、あとは映像のプロのみなさんにお任せします、という感じでした。企画の段階で「原作では各短編が独立していますが、新たに一本の軸を設けて長編にします」と言われて、その発想は自分にはなかったので一瞬戸惑ったんですが、映画にするならそれぐらい変えるのもアリかなと思ったんです。

新庄 潔いですね。

結城 これはぜひお伺いしたかったんですが、どういった経緯で地面師という題材を選ばれたんですか。

新庄 編集者が、「新庄さん、地面師の話やりませんか?」と言ってきたんです。

結城 そんな始まりだったんですか!?

新庄 不動産関係の人と編集者が飲んでいて、積水ハウス地面師事件の話になったらしいんですね。その事件のことは僕も興味があったし、編集者が新庄にこの題材は合うんじゃないかと思ったものは、合うに決まっているという短絡思考でした。

結城 炯眼ですね、新庄さんも編集者も。

新庄 私はデビューが純文学の賞だったんですが、いろいろと模索していく中でそっちでは生き残れない、じゃあエンタメだとなっていった。結局、自分にできることって限られているじゃないですか。例えば、結城さんみたいなミステリーは僕には書けない。朝井リョウさんとか小川さとしさんみたいな小説も書けないし、恋愛小説を書けとは誰も言ってこない(笑)。でも、『地面師たち』みたいな物語だったらやれそうだなという感じで割り切っています。

結城 僕は超絶不可解なことが冒頭で起きて、その謎を解くために登場人物たちが動くというミステリーの書き方が体に染み付いているんですが、『地面師たち』は淡々と第一の詐欺に入っていって「ここではうまくいったけど、この先どうなるの?」と。登場人物たちの行く末を知りたい、という牽引力をここまで出せるというのは、作家として身に付けたい力だなと思っています。

新庄 こいつは何を考えているんだろうとか、どういうふうに生きてきたんだろうとか、そういうことばっかり考えているんですよね。功罪あると思うんですけど、そういうねちねちしたところに「純文」の残り香があるのかも。

結城 ねちねち、はしっくりきます。なるほどと今思いました。

新庄 じめじめ、かも(笑)。ナメクジの好きそうな環境の小説です。

フードデリバリーならではの謎解き

新庄 結城さんの『難問の多い料理店』は、飲食店なんだけれども客席がない、フードデリバリーに特化したレストランのシェフが謎を解いていく。そういうお店をゴーストレストランと呼ぶことは知っていたんですが、物語の舞台になるとは想像もしていなかったですね。どうやって発想していったんですか?

結城 まず「小説すばる」の編集者と話をしている中で、フードデリバリーを題材にすることが固まっていきました。連作短編にすることは決まっていたので、ゴーストレストランを拠点にするのはどうだろう、と。そこに出入りしている配達員たちを出先機関というか、助手として使っている人がいて、本人はレストランに常駐している。この形にすると今風の「安楽椅子探偵」になるぞと気が付いて、いけるかもと進んでいった感じです。

新庄 「このネタでミステリーがやれるんじゃないか?」と、普段からいろいろ考えているんですか。

結城 めちゃめちゃ考えています。特に『#真相をお話しします』の頃から、「今この時代だからこそ書けるもの」をアイデアとして押し出すようになったんです。これまで無数に書かれてきたミステリーの名作に太刀打ちできるとしたら、僕の戦い方はそこしかないんじゃないかな、と。例えばフードデリバリーを使ったミステリーなんて、江戸川乱歩はじめ、往年のミステリー作家たちは書いていないじゃないですか。そういう題材をミステリーにすれば、
新規性も出るし、多少トリックが昔の作品と似ていたとしても大目に見てもらえる(笑)。

新庄 ミステリーの世界って、読者の目が肥えているじゃないですか。書くには相当ハードルが高いと思うんです。しかも連作だから、何個も話を考えなければならないわけですよね。

結城 僕もフードデリバリーで何話もやれるのかなって、最初は不安だったんです。ただ、配達員を毎回変えて、彼ら一人ひとりの事情とミステリーのネタを掛け合わせれば膨らんでいくんじゃないかなと気づいた時に、意外と書けるかも、となりました。

新庄 ミステリーの部分もいいけど、配達員のドラマの部分もいいんですよね。笹塚のアパートに息子と住んでいるシングルマザーの配達員の話(第三話「ままならぬ世のオニオントマトスープ事件」)は、グッとくるものがありました。

結城 嬉しいです。この作品を書くにあたって、実際に配達員をやられている方のブログを手当たり次第に読んでいったんです。配達員という仕事を選んだ一人ひとりの背景に、今の時代ならではのものを感じたんですよ。文字情報として直接書かれているわけではないんだけれども、行間から滲んでくるものがある。そこを自分なりに咀嚼して、登場人物たちの心情として出力していく感覚でした。

新庄 確かにフードデリバリーは時代を映しているかもしれない。誰でもできますもんね。

結城 一番腐心したというか大変だったのは、フードデリバリーならではの謎をどう作るかでした。全話がそういうタイプの謎である必要はないとは思っていたんですが、そこを捻り出さなければこの題材を選んだ意味がない。それで、同じ人が一〇回連続で配達に来る(第四話「異常値レベルの具だくさんユッケジャンスープ事件」)、空き部屋に置き配が届く(第五話「悪霊退散手羽元サムゲタン風スープ事件」)という謎を捻り出しました。なおかつ、謎をなんとか作れたなら、今度はそれを解決しなければならない。そこも、フードデリバリーならではの答えの導き方でなければと思っていたんです。

新庄 アイデアが出ない時って、どうするんですか。

結城 延々と歩きます。靴擦れして足が血まみれになって帰ってきて、フローリングの床に赤い足跡が点々……みたいなことがありました。じっとしていると、思考も止まっちゃう気がするんですよね。

新庄 分かる気がします。そういう時は一回、机から離れたほうがいいのかも。ただ、僕の場合は、飲みに行きます(笑)。

小説を書くこんなに面白い仕事はないですよ

新庄 ミステリーは、最初に問いがあって、アンサーがあるわけじゃないですか。でも、あらゆる物語も、ある種のテーマがどこかの段階で掲げられて、それに対するアンサーがある。それはラストシーンかもしれないし、主人公が逡巡しゅんじゅんのすえに選んだ何かしらの言動だったりするかもしれない。課題解決という意味で僕もミステリー的な作りを意識する時はあるんですが、ミステリーと呼ばれ得るものを書けるかどうかといえば、僕にはたぶん無理。結城さんはずっとミステリーが好きで読まれてきたんですか?

結城 そうですね。ただ、将来は小説家になりたいなと思ったきっかけは、中学三年生の時に読んだ高見広春こうしゅんさんの『バトル・ロワイアル』です。中学三年生の同級生同士が殺し合う? 何やそれ、と思って読み始めたらめちゃくちゃ面白くて。じゃあ自分でも書いてみようと、卒業文集で自分が所属しているサッカー部員たちが高校進学をかけて殺し合う小説を書いたんです。それがむちゃくちゃウケたんですよ。同級生だけじゃなくて、保護者からも「家事をほっぽり出して最後まで読んじゃった」みたいな感想が親経由で伝わってきた。寛容な学校でした(笑)。その時の喜びが、作家としての原点というか、人生を決定づけたという気がします。

新庄 僕は、純文系のエンタメが好きなんです。沢木耕太郎さんの『深夜特急』だったり、村上龍さんの『五分後の世界』だったり。吉村昭さんも好きなんですが、吉村昭って実は芥川賞に四回くらいノミネートされているんですよね。お話が面白いのも大事なんですが、文体というんですかね、その文章の世界に入っているのが好き。現実からの逃げ場というか、自分にとってすごく安心できる場所は本の中だった気がします。

結城 本を読んでいる間は一人になれる、というのは読書の一番の魅力ですよね。

新庄 それを書くっていう、こんなに面白い仕事はないですよと言いたい。

結城 自分もなりたい、と下の世代の人たちに思ってもらえる職業でありたいですよね。小説家って夢があるじゃん、その世界に自分も飛び込んでみたいなって。そう思ってくれる人が増えるように頑張らないといけないなと。

新庄 本が売れないとかグチってる姿ばっかり見ていると、誰も目指さなくなりますからね。小説はまだまだいけるよ、楽しいよ、稼げるよ、と。少年少女たちよ、YouTuberよりこっちカモン、と。

結城 子どもたちの「なりたい職業ランキング」で、一位はだいぶ厳しそうですけど、小説家が一五位ぐらいには入ってきて欲しいですよね。

新庄 いやいや、ナンバーワンを目指しましょう。

結城 目指しますか!

新庄 お願いします。期待しています。私はこんな感じなので日陰でやっていきますけど、結城さんみたいに華のある人がばんばん表に立っていただいて……。

結城 今、急にハシゴを外されましたけど(笑)。いつか一位になるその日まで一緒に走り続けましょう。

結城真一郎

ゆうき・しんいちろう●作家。
1991年神奈川県生まれ。東京大学法学部卒。2018年、『名もなき星の哀歌』(「スターダスト・ナイト」改題)で第5回新潮ミステリー大賞を受賞しデビュー。21年、短編小説「#拡散希望」で第74回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。著書に『救国ゲーム』『#真相をお話しします』『どうせ世界は終わるけど』等。

新庄 耕

しんじょう・こう●作家。
1983年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年、『狭小邸宅』で第36回すばる文学賞を受賞しデビュー。著書に『ニューカルマ』『カトク 過重労働撲滅特別対策班』『サーラレーオ』『地面師たち』『夏が破れる』『地面師たち ファイナル・ベッツ』『地面師たち アノニマス』等。

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『地面師たち』

新庄 耕 著

発売中・集英社文庫

定価814円(税込)

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『難問の多い料理店』

結城真一郎 著

発売中・集英社文庫

定価1,210円(税込)

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