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斎藤幸平×國分功一郎
斎藤幸平『人新世の「黙示録」』(集英社シリーズ・コモン)
「資本主義の外側」への招待状

[対談]

「資本主義の外側」への招待状

人類の経済活動が地球環境を壊す「人新世ひとしんせい」の時代。この世界的危機を解決するヒントを晩期マルクスの思想の中に見出した斎藤幸平さんは、2020年に『人新世の「資本論」』(集英社新書)を上梓。本書は翌年に新書大賞を受賞する一方、19言語に翻訳され世界的なベストセラーとなりました。
そしてこの度、その続刊となる『人新世の「黙示録」』(集英社シリーズ・コモン)が発売されます。刊行を記念して、哲学者・國分功一郎さんをゲストにお迎えし、斎藤さんと、待望の最新刊について語っていただきました。

構成=中村友哉/撮影=露木聡子

恒久欠乏経済と新しいファシズム

國分 斎藤さんの新著『人新世の「黙示録」』を読んで驚いたのは、斎藤さんが「暗黒」という言葉を使っていたことです。現在の世界は取り返しのつかないところまで行ってしまっており、そのつらい現実を直視することから始めなければならないと指摘している。
 斎藤さん自身は、とても明るいキャラクターの持ち主だから、そのぶん衝撃が大きかったですね。この衝撃をどう受け止めていいのか。いまだ整理がつかないくらいのショックでした。

斎藤 しかも提唱しているのが「暗黒社会主義」ですからね。タイトルにも「黙示録」という言葉を選んで使ったように、今回は世界の終末を見据えています。

國分 斎藤さんが現在の状況をどう捉えているのか、改めて説明してもらえますか。

斎藤 私はこれからの世界を終末期特有のファシズムが覆っていくだろうと考えて、この本の執筆を始めました。書いているうちに、現実のほうが追い付いてきた感じです。
 歴史を振り返ると、第一次世界大戦後のイタリアで労働運動が勢いを増したときに、資本家たちは国家と手を結び、労働者や社会主義者の動きを抑え込んだ。そうやって成立したのがファシズムのムッソリーニ政権でした。
 その後、ドイツのナチスなど各国にファシズムは飛び火していくわけですが、現在のファシズムは、その100年前のファシズムとはまったく違う発生の原因がふたつあると考えています。
 第一の原因は、気候危機による恒久欠乏経済が人々の不安を招いているということですね。前著の『人新世の「資本論」』で詳しく述べたように、資本主義は経済成長を求めて環境破壊を繰り返します。その結果が、気候変動です。こんなに気温が上昇し、被害も出ているのに、対策は進まず、国連事務総長に「人類は地獄の門を開けてしまった」と言わしめるほど状況は悪化しています。

國分 まさに暗黒だ。

斎藤 気候変動のせいで、食糧をはじめ、さまざまな物資の入手が困難になり、さほど遠くない将来に、多くの人たちは、まともな生活を送ることが難しくなるでしょう。気候変動はもう不可逆的なほど、進んでしまったため、気候崩壊と呼ばれるほどで、今後、欠乏は半永久的に続く。これが恒久欠乏経済ということの意味です。
 そこで、人々は「このままでは自分も切り捨てられるのではないか」という不安に駆られ、他者を蹴落とすことで何とか選ばれる側に入ろうとしています。言ってみれば、選民的な終末思想ですね。
 そうした考え方にとらわれていくうちに、さらに分断や対立が進んでいくというのが現在の状況だと思います。

國分 なるほど。

テクノ資本主義と富裕層による階級闘争

斎藤 もうひとつの原因が、GAFAM(Google(Alphabet)/Apple/Face-book(Meta)/Amazon/Microsoft)がプラットフォームやAIの独占で金儲けをするテクノ資本主義の興隆です。デジタル空間を独占するだけの経済は、じつは社会にとってエッセンシャルなモノも価値も生み出さない。欠乏がさらに進む理由でもあります。

國分 テクノ資本主義をマルクスの地代論で丁寧に説明してくれた箇所は、僕も膝を打ちました。

斎藤 どうでもいい労働をブルシット・ジョブと言いますが、SNSにあおられたブルシット消費も増えています。
 しかも、そうしたテック・エリートたちは、露骨に国家と結託しようとする。

國分 イーロン・マスクとトランプ政権初期の蜜月が典型だね。
 テック業界ではないけれども、アメリカの大富豪ウォーレン・バフェットがこんな言葉を言っていたそうです。「階級闘争がある、というのはその通りだろうが、闘争を仕掛けているのは富裕階級のほうだ。そして富裕階級は勝利しつつある」と。

斎藤 ほんと、そうなんですよ。それを極端な形でテック・エリートがやると、「テクノ・ファシズム」になるわけです。実際、AIやロボットなどの技術を用い、監視や排除を進め、社会の不安定さを無理やり抑え込んでいます。
 こうした体制では人権や民主主義など西洋近代の理念は否定され、マイノリティかマジョリティかを問わず略奪や監視の対象になります。これまで通りの生活を送れるのは富裕層だけです。
 イーロン・マスクだけでなく、ピーター・ティールのように独裁への野望を隠していない人たちもいます。地球環境が破壊され、リソース自体が枯渇していく中で、残されたリソースが富裕層に優先的に配分されることで、0.01%の強者と残りの弱者の格差はさらに広がり、命の選別にまで進んでいきます。

國分 中世の時代まで過去に遡るならば、キリスト教圏だと、金儲けしている奴らは汚いという宗教に基づく価値観がありました。あるいは、金持ちはほどこしをしなければならないという規範も十分、働いていたわけですね。それが、むやみな利潤追求に対するストッパーになっていました。
 しかし、いまはそういった規範もなければ徳もない。もし規範を取り戻せるとしたら宗教の力くらいかもしれないけれども、いま台頭している宗教と言えば、アメリカでトランプ大統領を支えている福音派でしょうか。まさしく「暗黒」といわざるを得ない。

「底つき」からの反転

斎藤 これまでずっと、私は「どうすればこの先に待ち構えている破局を回避できるか」ということを考えてきました。正直に言えば、コロナ禍をきっかけに、人類は資本主義の限界に気づき、一致団結して気候変動対策に取り組み、資本主義からの脱却を進めると思っていました。私はコロナ禍を「底つき」と捉えていたんですよ。

國分 臨床心理士の信田のぶたさよ子さんの用語ですね。そこもはっとしたところでした。

斎藤 「底つき」は、アディクション(依存状態)によって引き起こされた状況がもはや個人では手に負えなくなると、そこから援助希求につながる場合がある。そういう状態を指す言葉ですが、それと同じように、コロナ禍で社会矛盾が露呈したときに、資本主義に縛られすぎていることに、みんなが気づくかと思ったんですよ。
 ところが、コロナ禍から6年たちましたが、ウクライナでは戦争が続き、ガザではイスラエルによるジェノサイドが行われています。再び大統領になったトランプはグリーンランドを奪おうとしている。

國分 底だと思っていたものは、実は底ではなく、さらに底があった。

斎藤 甘かったですね。そもそも、「どうすれば破局を避けられるか」という問題設定が間違いでした。破局は避けられるというより、もうすでに破局は起きているのです。

國分 人類はどん底まで行かなければ、事態を改善することはできないのではないかという思想の危険性には十分に注意しなければならない。ただ、私たちはもっと深く絶望しなければならないのではないかとも、どうしても思ってしまう。

斎藤 私はそのことをドイツに一年間、研究滞在しているときに実感しました。ドイツでも気候変動への取り組みは進まず、それどころかナチスの再来とも言われる極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が反移民を掲げ、第二党になってしまった。また、同時期に、ガザのジェノサイドをイスラエルの自衛と見なし、イスラエルに大量の武器を送る一方、パレスチナには主権も人権もないかのような振る舞いを続けています。

國分 戦後日本は同じく敗戦国のドイツをずっと手本にしてやってきて、「ドイツはよくやっている」「ドイツと比べて日本はどうか」ということが絶えず議論されてきました。しかし、戦後80年たち、日本が追いかけてきたドイツの姿はまったくの幻想だったということが明らかになってしまった。
 それこそ私たちの共通の知人である哲学者マルクス・ガブリエルも、イスラエルを擁護する側に回っている。以前に来日したときには、ドイツの基本法に書かれている「人間の尊厳」について、一緒に議論したりしたものだけれど。

斎藤 それなのに、ですよ。2024年に日本の新聞に彼が寄稿した論考では、イスラエル軍が大量虐殺を計画したり、政府がそれを企図したりしていないことは明白であり、イスラエル兵の大部分は家族や友人、国家の存続をテロ組織から守ろうとしているのであって、一般市民を標的にする意図はないと書いたのです。つまり、ジェノサイドの擁護です。

資本主義に代わる「民主的計画」

國分 ただ、斎藤さんは「暗黒」という言葉を使ってはいるものの、決してニヒリズムやシニシズムに陥っているわけではありませんね。そこは強調しておく必要があります。

斎藤 ええ、何をしても意味がないと言っているのではありません。どん底から這い上がる方法はあると思っています。今後、事態はさらに悪くなり、少なくない人たちが災害や飢餓によって命を落とすでしょう。生きるか死ぬかという瀬戸際にならなければ、現在が危機的状況であるとの認識が共有されず、新しい社会への道は開かれない。
 けれど、早晩、そうなる。そのときの準備をしておこう、いや、できればその少し前に、という気持ちで、この本を書きました。
 そのために、私が新著で提示したのは「民主的計画」です。資本主義の暴走が引き起こす環境破壊や社会崩壊を食い止めるには、国家を中心としたより大規模な経済の社会化と計画化が不可欠です。
しかし、計画経済と言うとどうしてもソ連や全体主義の姿が連想されますよね。
これは経済学者ハイエクの影響です。ハイエクは著書『隷属への道』(一九四四年刊行)で、社会主義の計画経済が全体主義を招くとし、市場経済を擁護しました。これにより計画経済は非常に不人気になってしまいました。
 しかし、ハイエクが擁護した市場経済は貧富の格差を生み、金融危機を招き、GAFAMによるデジタル・プラットフォームの独占をもたらしました。環境問題を悪化させ、地政学的緊張を高めたのも市場経済です。その結果、今日では富裕層以外の人々は自由を享受できずにいます。結局、ハイエクは別の「隷属への道」を敷いただけです。
 また、計画経済は資本主義と比べて非効率的だと批判されてきましたが、資本主義では利潤最大化のための競争が先行し、必要なものを過小にしたり、不必要なものを過剰に生産したりしている。こちらのほうが、よほど無秩序で非効率です。

國分 そもそも計画経済はけしからんと言われるけれども、現在の資本主義ほど、うるさく計画を押しつけてくる経済体制もないのではないか。企業の業務管理ではPDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクルが重要だとされるし、研究への予算配分における「選択と集中」の考え方も計画と切り離せない。大学の研究ですら、資本主義に吞み込まれ、「6年計画を提出しろ」などと言われる。社会主義の計画を批判しながら、資本主義の計画をよしとするのは矛盾していますよ。
 斎藤さんはAmazonの話もしてますね。Amazonでは私たちの目にどのような商品がどの順番で陳列され、何がお薦めされるか、すべて個人データに合わせてパーソナライズされています。そこには競争もなければ自由取引もありません。これを、ジェフ・ベゾスによって作り上げられた「非民主的な計画経済」であると斎藤さんは書いていますが、同感です。こういう一言は読者に新しい光景を見せてくれます。

斎藤 ありがとうございます。もちろん私もソ連のような中央集権型の計画経済をもう一度やるべきだ、なんて思っているわけではありません。ハイエクが批判したように、中央集権型の計画経済が全体主義を招いたのは歴史的事実です。計画経済の致命的欠陥を克服するには、ノルマや監視を通じて画一的な計画を押しつけるやり方をやめなければなりません。そんなソ連型の計画経済ではなく、専門家や市民、消費者、労働者たちが能動的に意思決定に参加できるような計画が必要です。私はこれを「民主的計画」と呼んでいます。そういう可能性があるにもかかわらず、「ない」というふうに議論を誘導したのがハイエクです。
 その「ハイエクの呪縛」をほどいて、新しい未来の選択肢を提示できないかというのがこの本の目的のひとつです。

國分 僕がいつも言っているのは、どんどん社会が一元化していくことへの危機感というか、そのつまらなさを訴えることです。これは拙著『暇と退屈の倫理学』(新潮文庫)以来の僕の姿勢です。資本主義が世界を覆っていくことで、価値が一元化していき、僕たち自身の満足が全く顧みられなくなっていく。
 今回の本では、「多元的経済」を実現するためにこそ計画が必要だという話も、重要なポイントだと思います。戦後、とりわけ1970年代以降、多くの人たちがとらわれてきたハイエク的なもの─ハイエクという思想家そのものではなく─から抜け出し、計画経済を相対化できるかどうか、それが問われています。

斎藤 もしそのような相対化がうまくいったあかつきには、ファシズムの再来を食い止めることができるでしょう。不可能ではありません。そのような動きは、反動化が進むアメリカでも出てきており、ニューヨークの市長に民主的社会主義者が選ばれるようにまでなっています。しかもトランプ大統領にも、言うべきことは言う姿勢を見せている。
 さらに新市長のマムダニは、乳幼児のケアの無償化や公営食料品店の設置など、普通の人が誰しも求めるエッセンシャルなものを手にできるような温かい計画を実行しようとしています。

國分 人間が本質的に必要とするものを満足させることができるのは資本主義的な競争ではないことを示しているわけですね。資本主義の外側を知らなければ、資本主義ではない社会を求めることはできませんが、それを市政によって見せようとしている。
 そういう意味では、斎藤さんの新著も姿勢が共通していますよね。「資本主義は贅沢を与えているのではなく、われわれから贅沢を奪っている側面があるけれども、それでいいんですか? 資本主義の外側をみてみませんか?」という招待状がこの本です。

斎藤 気候崩壊はこれまでの暮らしを維持することを困難にしていきますが、その際に生じる不安や苦しみを前にして、これまでの資本主義の世界にしがみつくだけなら、社会はますます分断され、力による支配になっていくでしょう。この世界の終わりとして受け入れることだけが、一つの希望を与えてくれるのです。それこそが、暗黒社会主義です。
 その先にある未来を描くことは、行き詰まる日本の経済や政治を前にして重要な意味を持っていますし、本書の掲げる計画経済こそがこれ以上の日本の衰退を防ぐためのヒントになっていると信じています。

斎藤幸平

さいとう・こうへい●経済思想家。
1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。著書に『人新世の「資本論」』(新書大賞)『大洪水の前に』『ゼロからの『資本論』』等。編著に『資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐』『コモンの「自治」論』(共編著)等。

國分功一郎

こくぶん・こういちろう●哲学者。
1974年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。著書に『暇と退屈の倫理学』(紀伊國屋じんぶん大賞)『中動態の世界 意志と責任の考古学』(小林秀雄賞、紀伊國屋じんぶん大賞)『スピノザ 読む人の肖像』『目的への抵抗』『手段からの解放』等。

『人新世の「黙示録」』

斎藤幸平 著

4月6日発売・単行本

定価1,870円(税込)

集英社シリーズ・コモン

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前作の増補新版も同時発売!

『人新世の「資本論」 増補新版』

斎藤幸平 著

4月6日発売・単行本

定価1,980円(税込)

集英社シリーズ・コモン

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