[連載]
[第13回]「骨折」が届けてくれた改めて「自分」と向き合う時間
ロケバスに乗り込もうとした瞬間、段差で足首をグニャリ。尋常じゃないグニャリに「あ、やばい、これはやったな」と。そう思ったものの「まあ、捻挫くらいだろう」とたかをくくっていた私に、
そこから、まさかの松葉杖生活がスタート。実は、最初は「松葉杖なんて余裕でしょ」と思っていたんですよ。なぜなら、小学6年生のときに音楽室のピアノの下敷きになって足の指を複雑骨折。そのときに半年間くらい松葉杖生活をしたことがあったので。だがしかし、そこには約40年という長いブランクが……。大人になり、体重が増え、運動神経も劣化するばかりの今となっては、これがビックリするくらいしんどい!! 手も痛いし、脇も痛いし、なぜだか腰もやたら痛い!! 思うように歩けない不自由な生活にストレスを感じながら、日々、なんとか生きております。
そんな私のストレスを
そんな日々の中で感じているのが「一人で生きていくことの大変さ」です。東京で一人暮らしをスタートさせてから約30年、寂しいと思うこともあったけれど、結局は「一人が一番楽しいよね!」と自由を謳歌。でも、それも健康を害したら終わり。それどころか、自由を楽しんだぶん、後回しにしてきた苦労が一気に襲いかかってくるというか。一人で生きてきた代償を今、支払っているような感覚になったりして。そして、54歳にして「もう、誰でもいい。生理的に無理じゃなくて、常識があって、ちゃんと働いている人なら誰でもいい。お願いだから私と結婚して!」と急に自分を安売り。なのに全く売れる気配のない、今の私を支えてくれているのが女友達です。いとうあさこさんが「移動するのも大変でしょう」と車で送り迎えをしてくれたり、
不自由なことは多々あるけれど、だからこそ、見えてくる景色もあって。骨折生活は私に新たな“気づき”を沢山届けてくれてもいます。父親の介護もそのひとつ。今までは「他の人だと父の扱いは難しい、私じゃないと無理だ」って全部自分でやろうとしていたけど。私がいなくても母や義姉がちゃんとお世話。予定していた白内障の手術も何の問題もなくスムーズに終了してね。そこで、またもや私は気づき反省したわけですよ。「“周りを頼らないこと”は、“周りを信用していないこと”の裏返しなのかもしれないな」って。
若い頃の体と今の体は全然違う、それもまた骨折が教えてくれたことです。まず、ビックリしたのが、骨折して一週間後に医者から「骨の割れ目が開いています」と言われたこと。若い頃は「骨折なんて時間が経てば治るもんだ」と思っていたけど、どうやら50代の老体にはそれが通用しないらしい。そこで私は粉のカルシウムを飲み、ヨーグルトを食べ、アーモンドを食べ、ビタミンDを摂取。さらには、超音波骨折治療器までレンタル。私は頑張った、本当に頑張った、健康を取り戻すために本気で頑張った。だからこそ「良くなっていますよ」の一言を待っていたのに。先日、診察で言われたのは「悪くなっていないが、良くもなっていない」というまさかの一言で。ちっとも癒えない、治らない、本当に驚くほど牛歩ですからね、50代の回復力。
周りの先輩達から「50代はいろんなことが起こる時期」と聞いてはいたけれど。親に関しても、自分に関しても、まあ本当にいろんなことが起きる。特に自分に関しては「いつまでも若い」つもりだったけど、実際は「しっかり老いている」、このズレがトラブルを招くんだろうな。だからこそ、今ここで気を引き締めることができたのは逆に良かったのかもしれないな。そんなことを考えつつ、松葉杖をつきながら、今日も私は心に誓うのです。「もう二度と……私、骨折しませんから!!」と、ドクターX・
聞き手・構成=石井美輪
イラストレーション=中村桃子
大久保佳代子
おおくぼ・かよこ●タレント。
1971年5月12日生まれ、愛知県出身。千葉大学文学部卒業。1992年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、バラエティ番組にとどまらず、コメンテーターや女優としても活躍している。近著にエッセイ集『まるごとバナナが、食べきれない』(集英社)、『パジャマあるよと言われても』(マガジンハウス)。