[特集インタビュー]
「猫は九回生まれ変わる」ということから生死を題材にしようと思いました
『しゃばけ』『まんまこと』など江戸時代を舞台にしたファンタジックな時代小説が人気の畠中恵さん。二〇二〇年に刊行された『猫君』は、二十年生きて、
続編となる新刊『猫君 りんねの輪』では猫宿の
聞き手・構成=タカザワケンジ/撮影=山口真由子/イラスト=荒戸里也子

猫宿の長が殺された!
──前作は猫として二十年生きて猫又になったみかんが猫宿に入るまでと、同級生の猫又たちとの出会い、そこで起きる事件が描かれました。今回の続編『猫君 りんねの輪』では、冒頭で猫宿の長が殺されるというショッキングな事件が起こります。
「猫は九生を持つ」という言葉があるので、猫は九回生まれ変わる。猫に関するお話を書くなら生死に関するお話にしようというところから考え始めました。
──生まれ変わるということで『猫君 りんねの輪』。作中で「輪廻の輪に乗る」と表現されているのが新鮮でした。
ぐるぐるぐるっと回っているから。
──その輪にひゅんと乗る。
にゃんこなので(笑)。でも、九生とは言いますけど、生まれ変わるということは次に猫になるかどうかは分かりませんよね。生まれ変わるってどういうことなんだろうと思いながら書きました。
──猫宿の長は猫宿のトップで、前世は猫君だったんじゃないかという噂もあるくらいですから、あっという間に猫に転生してきます。しかも仔猫ながらに長の風格もあって。
『猫君』でも書きましたけど、長は天下の織田信長の生まれ変わりだったこともありますから(笑)。信長様だった猫又が普通の猫に生まれ変わるのでは悪いかなと。信長というキャラクターは好きなので、これはもう思い切ってその性格を反映するしかないと思いました。
──一方、みかんたちは二年生になりました。事件があったことで、ほかの学年の生徒たちは生まれ故郷の陣に呼び戻されてしまいます。しかしみかんたちの学年だけが猫宿のある江戸城に残り、長の生まれ変わりの仔猫を探すため江戸城内を動き回ることになります。猫宿が江戸城にあるという設定もますます重要になっていますね。
普段から元江戸城の中をウォーキングしているんですけど、『猫君』の続きを書くにあたって、みかんたちが寝泊まりしている江戸城内の富士見
──もともと皇居が畠中さんの散歩コースだったというところから『猫君』を考えられたと聞いています。
そうなんです。みかんたちはここからこう歩いて富士見多聞に行くんだとか、歩きながら考えました。この坂を転げ落ちたんだなとか。

言うことを聞かない首玉 たち
──さらに今回、江戸城に謎の僧侶が現れます。
──武田信玄のもとに身を寄せたという説もあるとか。
信長が生きている時にも生きてたんですよね。家康が亡くなって少し後に亡くなったという。
──天海と信長は生年も近いようです。ということは、『猫君』は徳川
猫が九回生まれ変わるということから生死を題材にしようと思ったので、戦国時代から江戸時代にかけて長く生きていた天海さんはぴったりな登場人物ではないだろうかと。本当に人だったのかなあ、という気もしますし。
──妖かもしれないですね。長いということでいえば、そもそも『猫君』を家斉の時代にしたのも、家斉が徳川幕府の将軍の中でもっとも長く将軍職にあったからとか。
お子さんも多いですし、いろいろ面白いエピソードを織り込めそうだなと。長い間在職していたわりには大きな事件が少なくて、比較的安定して穏やかだった時代だということもあります。そういう時代のほうが猫又たちの話に集中しやすいんじゃないかと思いました。
──前回は将軍から新米猫又たちに首玉(猫又たちが首から下げている不思議な力を持つ玉)を探させるゲームを仕掛けるなど、能動的に猫又に関わっていましたけど、今回は猫又たちを見守るポジションでしたね。
そうですね。今回の主役は首玉かなと。将軍のほうに意識を向けられてしまうと、首玉の話がメインにならないので。ただ、みかんたちの首玉はもともと将軍が与えたものなので、関わりは深いんですけどね。今回は、『猫君』ではまだそんなに存在感を発揮していなかった首玉が、だんだん姿を変えて、猫又たちの相棒になってきて、書けば書くほど妙なことになっていきました。
──首玉が全然言うこと聞いてくれない。みかんたち二年生がさんざん振り回されます。
一つくらい猫又の命令に従順な首玉があってもいいと思いますけど、一つだけ言うこと聞くというのは嫌なんでしょうね。結局、みんなで反発して好き勝手に変化して場を引っかき回すことになりました。
──首玉という存在そのものはどこから出てきたんですか。
猫の鈴ですね。
──時代劇でも鈴をつけた猫が出てきますね、そういえば。それが鈴じゃなくて、いろんな種類の玉で、さらにそれが何かに変化する。
そうですね。にゃんこの姿では、武士のように刀を差すわけにいかないので、何か身につけさせることができるとしたら、鈴だけかなと思って。だったら、鈴のように首回りにつけているものを自分の相棒にするしかないなというところから考えました。
──ところが、みかんたちの首玉はぜんぜん言うこと聞いてくれない。高価な首玉が、それぞれ謎なものに化けて、勝手な動き方をします。それぞれの首玉はどんなふうに考えられたんですか。
最初に考えたのは
──火を噴くから屋内でなかなか使えない。江戸城が燃えてしまう(笑)。
あれは私の小さい頃に観た『西遊記』の如意棒ですね。あれも大きくなったり、小さくなったりするイメージがあって、そこからです。
──ぽん太の首玉はもともとは小さな木彫りの
あれは進化させようと思ったんです。雀と隼って親戚なんですよ。
──えっ、そうなんですか。
そうなんです。DNA解析が進んで、隼は
──
私、浮き粉を知らなかったんです。天ぷらに使うんだと知って「あれがそうだったんだ」と。その時、浮き粉なら浮くしかないなと思って、そこでまたすすすすっと筆が進みました。攻撃的な首玉じゃない。浮くだけ(笑)。
AIみたいに便利な問答集
──首玉が持ち主の大嫌いなものに変身することもありますね。
江戸時代に描かれた土蜘蛛の絵が残っていまして、すごく怖いんですよ。とくに顔のところが。普通の蜘蛛さんの顔じゃなくて、人みたいな顔で「嫌だなあ、こんなの出てきたら」と思っていたので、ぜひとも出ていただこうと。
それに、赤猫の火が先に出てきたので、四大要素の火、水、土、風を出さないとと思って、土蜘蛛なら土になる。土蜘蛛になる前は手で持てる槌がいいと思いました。「つち」という音から土蜘蛛にしたのではなく、逆さまに考えて槌を出したんです。
──なぜ真金に持たせたんですか。
持っていそうだったから。小さな槌を持ってぱかんって叩きそう。俺はこれで戦うんだとか言って。
──そうですね、確かに。そういう猫又たちのキャラクターが楽しい。みかんの首玉も「え~っ」て感じなんですけど、そこは小説を読んでいただくとして、首玉で現代的だなと思ったのは、
私自身、最近、AIを使うことが多くなりました。パソコンのバージョンアップで、気がついたら入っていて、いきなり「めぐみさん」と言われて、「えっ」って。突然AIに名前で呼ばれてショックでした。自分の名前を教えた覚えがなかったので。OSに登録してある名前を呼ぶんですね。
──ドキっとしますよね。
「すいません、なじめないので名前を呼ばないでください」とAIに言ったら、三日ぐらいは呼ばなかったんですけど、気がついたらまた「めぐみさん」。
──忘れっぽい(笑)。
それからは諦めて、呼ばれるほうに慣れようと思ってます。でも、AIと問答していると、その内容をちゃんと覚えているんですよね。「めぐみさんは○○の傾向だから」とか言われちゃって。
──畠中さんと対話しているAIなら、江戸時代にすごく詳しいAIになりそうですね。
いろいろと調べてくれるので、便利は便利なんです。
──津矢真の問答集もそうですが、『猫君 りんねの輪』は江戸の話ですけど、現代人が現在の自分の生活と重ねながら読めるところが楽しいですね。
読み手は今を生きている方たちなので、ふだんの生活のことを思い出しながら読んでもらえるとうれしいです。
寺子屋を意識した猫又の学校「猫宿」
──『猫君』『猫君 りんねの輪』の大きな魅力は猫宿という学校にもあります。猫又たちの成長も楽しみだし、先生がいて、生徒がいてという関係性から生まれる会話やエピソードも面白いです。「ハリー・ポッター」シリーズの「ホグワーツ魔法魔術学校」を思い出しました。
江戸時代は庶民の学校、つまり寺子屋がたくさんありました。猫宿も人間の寺子屋を意識しています。たとえば商人になりたい子が寺子屋で読み書きそろばんを習います。その後に大きな商家に入ると、商売が終わった後、先輩たちが後輩たちに教えるというシステムがあったんです。その先輩たちも商家の主人や番頭から教え方を見られている。教えられるほうも教えるほうも必死だったようです。
しかも九年か十年に一遍、京都の本家本元の店に出されて試験を受ける商家もあったのです。その試験に合格したら江戸へ戻って雇用が継続されることになっていて、みんな必死に勉強したそうです。
──猫又の先生たちも厳しいですものね。
猫又たちは六つの陣地に属していて、各陣が対立しないように新米の猫又たちを猫宿に集めて勉強させているんですけど、それぞれの陣に戻ったら戻ったでいろいろあるだろうから、陣に戻るまでに教え込めることは教え込もうとしています。
──『猫君』では、猫又はしっぽが二股に分かれているので、猫又だと人にバレないように一つにするというところから始まって、人の姿に化けるというところまで成長しました。今回の『猫君 りんねの輪』では首玉を使うというハードルに挑みます。ステップアップしていくんですよね。一方、二冊に共通する要素がアクションというか、戦いの場面。今回も笠をかぶった笠男とよばれている
猫たちはほんわかした存在なので、激しいアクションを書こうと思うと難しい部分もありますね。アクションってぎりぎりの状況に追い込まれて必死にやるものだと思うんですが、そこにほわほわほわっとした猫たちが出てきて、「えーっ」とか言いながら戦う。緊張感もある程度欲しいなと思いつつ、でも、やっぱりほわほわも欲しいなと思いながら書いていきました。
──緩急を意識されて。
そう感じてもらえるといいなと。お侍たちとの戦いと、自分の分身みたいな首玉を使いこなすための戦いを並行してやっている感じが出ればいいなあと。
猫又の本場? 戸塚の猫又たち
──タイトルにもなっている「猫君」という存在についてもお聞きしたいんですが、前作では今の猫の繁栄の礎をつくった猫又の王であり英雄、仙人かもと言われているという説明がありました。猫宿の長が過去世でそうだったんじゃないかという噂もありましたが、畠中さんの中での猫君のイメージは変わりましたか。
最初は、猫君は今はいないから、たった一人しかいなくて、その一人が生まれ変わっているんだろうって猫又たちも思っていたと思うんです。でも、今回、長が、自分は猫又だったけれど最初の猫君ではなかったと言っているんですよね。猫又から猫又へと受け継がれていくものなのかもしれません。
──『猫君』をお書きになるときに、最初に登場する猫又や、猫又史、化け学などの授業カリキュラムなど設定資料をおつくりになったと聞いています。猫のこともかなり調べられたんですか。
調べました。歴史に残っている猫のエピソードってけっこうあるんですよ。平安時代の
──猫好きから見れば猫は特別な存在。猫君、と敬う存在の猫又がいても不思議じゃないです。あと、今回は、戸塚(神奈川)の猫又が登場しますね。前作でも戸塚の地名がちらっと出てきましたけど、戸塚の猫又を出そうと思ったのは?
実は別の作品(「しゃばけ」シリーズの『なりたい』所収の「猫になりたい」)で戸塚の猫又の話を書いたことがあり、戸塚へ確認しに行ったことがあるんです。「ああ、そうか、ここに猫又がいるんだ」と思ったので出そうと。戸塚の人たちはうちが猫又の本場みたいに思ってるかもしれませんし。
──なぜ戸塚の猫又が出てこない、と(笑)。
戸塚宿の醬油屋さんで、洗って干していた手拭いが毎晩一枚ずつ盗まれてしまう。疑われた
──猫にまつわる伝説や昔話はまだありそうですね。「猫君」シリーズに合流してきそうな猫と猫又たちもまだまだいそうです。
みかんたちはまだ二年生ですから、これから勉強することもたくさんあります。続きもぜひ書きたいですね。

畠中 恵
はたけなか・めぐみ●作家。
高知県生まれ、名古屋市育ち。2001年『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。病弱な若だんなと摩訶不思議な妖たちが様々な事件を解決する同シリーズで2016年、第1回吉川英治文庫賞を受賞。その他に、揉めごとの裁定をする町名主の跡取りが幼馴染とともに難問奇問に立ち向かう「まんまこと」シリーズ、『うずら大名』『猫君』『まろ丸伊勢参り』など著書多数。





