[対談]
「一人でも同志が増えたら」 趣味とトリビアがつまった初エッセイ集
初のエッセイ単行本『須賀のスガスガしくない話』が発売になった須賀しのぶさん。少女小説から一般文芸まで長年走り続けている作者が、古巣であるコバルト文庫(以下コバルトと略)のあとがきのノリで書いたという雑談は、軽快だけど多分野のトリビアがつまった贅沢な読み味になっています。
ここでは、コバルトで同期にデビューした朋友、
構成=太田由紀/撮影=露木聡子

仲が良くても書き方は全くちがう
須賀 真堂さんとは、同じ94年デビューで、プライベートでも仲良くしてもらってます。年賀状も今も続いてるし(笑)。執筆スタイルはちがいますけど。
真堂 そう、全然ちがいますよね(笑)。小説を書く際、私の場合はキャラ先というか、キャラの動きで物語を作っていく。ところが須賀さんの作品は西洋建築の石積のように実直に積み上げられた世界観の基礎がしっかりしていて、創作スタイルもそうなんだろうなと……。かっこいいなってリスペクトしています。
須賀 ありがとうございます、なんか照れる(笑)。執筆のペースも真逆ですよね。私は締め切り間際になってからが勝負みたいなところがあって。でも真堂さんは締め切りの1か月前には必ず上がっていますよね。
真堂 体力に自信がないから早く上げないとまずいんです。締め切りが迫ると、すみませんムリですってなりそうで……。須賀さんは、さすがサバイバル系を得意としているだけあって、
須賀 ちがう、ちがう。私、締め切り間際に追い詰められて1日100枚書いたことがあったんですよ。でも、体ボロボロになっちゃって辛い。だから私もせめて1週間前には上げるように頑張ろうと思ってはいるけど、1回もできたことない。締め切りが近づくと何か謎の回路が開くというか、追い詰められると何か降りてくるみたいなところがあって。それをちょっと待っているところもあって。でも若い頃はよくできたんですけど、最近はそれより前に眠くなっちゃう(笑)。やっぱ真堂形式にしないといけないなって思っています。
回路を開く音楽と喫茶
真堂 謎の回路が開く話、興味ありますね。
須賀 私、仕事中は音楽とか流さず無音なんです。なんだけど、ライブでクラシックを聴いて心に刺さったりするとパーンって自分の中の感覚世界が1段ステージが上がりましたみたいになるんです。ゾーンに入るっていうか。今回のエッセイにも書いたけど、コンサートに行ってうまくゾーンに入ったら、体を揺らさないように帰ってきて、お風呂も入らずパーッと仕事しちゃう。あれは音楽の振動なのかなとか、いろいろ考えたんですけど。真堂さんは、自分の中のカンフル剤的なもの、あります?
真堂 私は喫茶ですかね。中国茶を飲んで、体内を清浄にしてから机に向かう。日常から離れて物語に向かうために、そういうルーティンはありますね。
須賀 中国茶ってすごく納得します。若い頃とはちがって、今は家庭のこととか日常からの切り替えが大事ですからね。でも、中国茶って胃荒れたりしません?
真堂 大丈夫です。
須賀 以前、中国茶を本格的なお作法で振る舞っていただいたじゃないですか。すごく美味しかった。
真堂 須賀さんは、クラシックはやっぱりワーグナーを聴くのですか?
須賀 最近はワーグナーはちょっと疲れるかな……。今はバッハとかモーツァルトあたりが好きになってきました。このシーンにはこの作曲家の曲がいいかな、とかあって。
真堂 仕事中は無音って仰っていたけど、その曲が脳内で流れている?
須賀 あ、そうかも……。頭の中でBGMっぽく流れて、作中のキャラクターが頑張っているみたいな。
真堂 他の作家さんとかはどんなスタイルで書いてらっしゃるんでしょうね。
須賀 どうなんでしょうね。コバルト時代は作家さん同士、プライベートでよく集まっていましたよね。
真堂 ですよね。あまり仕事の話はしなかったけれど、連帯意識はありましたね。
コバルトのおかげで今がある
真堂 忘れていましたけど、スマキントリオとか(笑)?
須賀 その話、します(笑)? 一体、誰が考えたネーミングなのか謎ですが。もう一人のコバルト同期の
真堂 金蓮花さんの〝キン〟、須賀さんの〝ス〟私の〝真〟をマと読ませて、3人セットで売り出されることが多かった。かなり無茶なネーミングだけど……。
須賀 あの頃は読者を招待して作家たちとお茶会とかサイン会とか、イベントが頻繁にありましたよね。作家って基本人前に出るのが苦手だから結構ハードだった。でも、そういう交流会を通して親近感を持ってくださった当時の読者の方々が、今でもついてきてくださっていて本当にありがたいと思います。
真堂 交流会を通じて読者さんたちの顔が見えて本当に良かったです。
須賀 そうそう。私たちは20代前半で、読者の方は中学生や高校生の10代がメインで。皆、すごく震えるほど緊張していましたよね。それで一生懸命に声をかけて応援してくださるから、「この子たちを幸せにしなきゃ」って作家として意識するきっかけになりましたね。こっちまで緊張しちゃってサインするとき、なんて書けばいいんだろうって思った(笑)。
真堂 あの経験は本当に大きかったですね。読者と同じ心を共有できて。作家として作品の向こう側にいる読者の顔が見えたことは本当に大きかったです。
名物あとがきの思い出
須賀 読者との交流と言えば、コバルトの名物、あとがきがあります。このエッセイは、当時のあとがきのノリで書こうと決めて始めたんですが、昔の自分が書いたあとがきを改めて読み返すと、あまりにネジが飛んでて恥ずかしくて……。あの頃よりは、今回は理性が保たれていると思いたい。真堂さんは、あとがきの思い出はありますか?
真堂 私が書いていたのはシリアスな流れの話が多くて、なおかつ次巻への引きのために、あえて殺伐としたシーンで切るんです。でも読者の読後感を考えると、あとがきで少しは明るくしてあげたかった。たとえば宝塚で言うと深刻なお芝居の後、明るいショーで観客の気分を盛り上げるような感じですね。あとがきを通じて、真堂樹ってシビアな小説書いているけど、意外に楽しくて面白い人だなと親しみを感じてもらえればと。それでうまくバランスが取れればいいなと思っていました。ある意味“あとがき版真堂”を楽しく演じる感じでしょうか。
須賀 おお……さすが1か月前に原稿を上げる人はちゃんと考えてる(笑)。私は演じる余裕もなく、とりあえず早く寝たい一心でした。
脳内の本棚
真堂 今回のエッセイは、テーマが毎回ちがうから、読んでいて、須賀さんの心の中とか、脳内の本棚が想像できました。いろんなトリビアがつまっていて、なんだか得した気分がします。たとえば、カラー診断のところの「イエベ」「ブルべ」とか恥ずかしながら初めて知りました。友達に聞いたら周回遅れかって笑われましたよ(笑)。クラシックの指揮者の回も、私はそれまではただ音楽を聴いているだけだったのですが、歴史的な話をはさんでくださるので面白かったです。須賀さんの好きな野球にたとえると、どれだけ球種持っているの、っていう感じ。軽い調子で書かれていますけど、須賀さんらしい知識と体験と思考の積み重ねがしっかりある。持っている世界のそれぞれ入り口になっている感じがしました。私もフラメンコのタブラオに連れてってくれないかなと思いましたよ。
須賀 是非是非、行きましょう!
真堂 私、中1の頃、1年ほどバレーボールをかじったくらいでスポーツは全く苦手なんですけど、春の選抜高校野球も見てみたいなと思いました。春と夏ってちがうんだって初めて知って。
須賀 この本が、いろんな世界の入り口になっていると言われると嬉しいです。私がコバルトで書いていた分野ってミリタリーとか野球とか、一般の女子には受け入れがたい趣味が多かったので。小説もそうなんですが、このエッセイで一人でも同志が増えたらいいなと思いつつ書いていたところがありますね。
真堂 私もしっかりしなきゃ、知識欲のスイッチ切れてないか、と反省しました。須賀さんに何か教えてもらいたいですよ、フラメンコとか……。
須賀 ダンスは良いですよ。踊って発散してスッキリしたらネタが浮かんだりとかして。近頃とくに体力に余剰がないと創作って難しいなって思います。だって脳って体の一番上に乗っかっているから、パワーがないとアンテナが動きませんし。
真堂 小学生の頃の須賀さんが『三国志』に夢中になっていた話も姿が想像できて面白かったです。それにしても、小学生で
須賀 そんなことないって(笑)。でも当時の経験から、本当に読みたい話がないなら自分で書くしかないと思うようになって、それが作家を目指したきっかけだったかも……。
真堂 私は、友達に誘われてコバルト・ノベル大賞に作品を投稿することにしたんですけど、受賞作を書き終えたとき、なんて幸せなんだろう、作家ってこんなことできるんだと分かって……。たぶん、完全に自分好みの世界を作り上げたからなんでしょうけど、その快感をずっと求めている感じですね。
埼玉自慢
真堂 須賀さんとの共通点に、埼玉があるんですよね。私は生まれたのは新宿なんですけど、10年ほど前に埼玉県
須賀 たぶん埼玉で一番有名なのは私の地元名物の
真堂 熊谷の名産ってなんだろう?
須賀 やっぱり暑さじゃないですか。(地元のデパート)
真堂 熊谷の暑さって質が違うんですよね。その前にいた練馬も暑かったんですけど、熊谷は並木が見当たらなくて、日光を遮るものがない。
須賀 でも埼玉は住むには結構いい所でしょ。今回の表紙のイラストは、コバルト時代からのおつき合いの
真堂 県鳥のシラコバトの絵も中に出てきていますよね。
軽快だけど贅沢なお茶会のノリ
真堂 ところで、こんなにまとまりのない対談で大丈夫なんでしょうか。
須賀 この本のコンセプトが、方向性皆無でいい、ということですから、大丈夫でしょう。
真堂 初めてのエッセイ本ということですが、読んでいて須賀さんの身振り手振りや声の調子が感じられて本当に面白かったです。シャープだけど、照れがあるのが須賀さんらしいなって。絶妙な照れがエンタメ要素になっていて、読んでいてすごく心地いい。
須賀 自分じゃちょっと正視できないんですけどね。常識外れだった昔のあとがきのノリで書いたから、ああすいませんって……(笑)。
真堂 私も、書きたいものを書いているだけという感覚は、昔と変わりません。
須賀 でも、みんなずっとそうですよ。きっと変わらないよね、あの時代から書いている人たちは。多少ジャンルが変わっても、スタイルは変わらない。
真堂 私、須賀さんの『また、桜の国で』を読んだとき、クライマックスに近づいていくと、やっぱりこのドキドキ感はコバルト作品と変わらないものがあるなと思いました。
須賀 そうかも……。一般文芸を書いているときは、コバルトとは書き方を変えるんですけど、クライマックスになるとコバルト時代のパターンが混じってくるんです。そうすることで本来の自分が出てきて、テンション上がると文章に血肉が通って読者も乗ってくれるというか、そういうのはありますね。
真堂 やっぱり血のたぎりみたいな、そういうのは変わらないのですね。
須賀 うまく、真面目な話で締める感じになりましたね。今日はありがとうございました。
真堂 皆さん、こんな感じの軽快だけど贅沢なエッセイ本です。おしゃべりに加わる感じで、お茶会のノリでお楽しみください。

須賀しのぶ
すが・しのぶ●作家。
埼玉県生まれ。「惑星童話」で94年度上期コバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞しデビュー。著書に『神の棘』『芙蓉千里』(センス・オブ・ジェンダー賞)『革命前夜』(大藪春彦賞)『また、桜の国で』(高校生直木賞)『流血女神伝』シリーズ等多数。

真堂 樹
しんどう・たつき●作家。
東京都生まれ。「春王冥府」で94年度下期コバルト・ノベル大賞を受賞しデビュー。著書に『四龍島』シリーズ、『お坊さんとお茶を』シリーズ、『月下薔薇夜話』シリーズ、『帝都妖怪ロマンチカ』シリーズ、『春燕さん、事件です! 女役人の皇都怪異帖』等多数。





