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「北朝鮮帰国者」の記憶を記録する会 編『証言・北朝鮮帰国者 祖国に渡った「在日」はどう生きたか』(集英社新書)を伊東順子さんが読む

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個人の記憶と集団の記憶

 1945年の日本の敗戦時、日本国内には約200万人の朝鮮半島出身者がいた。うち140万人余りは1年以内に故郷に引き揚げたが、残りの人々は家族の生活を守りながら帰国のタイミングを見計らっていた。ところが祖国は米ソによって分断され、ついに朝鮮戦争が勃発する。その渦中に日本政府は旧植民地出身者の日本国籍を一方的に剝奪。「無国籍状態」となった人々は、ひどい差別と貧困に苦しむことになる。
「このまま日本にいても未来が見えない」
 そこに手を差し伸べたのが北朝鮮だった。
「医療も教育も無料の社会主義祖国へ」
 1959年から日朝赤十字による帰国事業がスタート。総勢9万3340もの人々が希望を胸に日本を旅立った。その中には日本人妻や夫もいたが、あろうことか皆そのまま北朝鮮という全体主義国家に閉じ込められてしまった。彼らがどんな人生を送ったのか。漏れ出てくる話はあっても全体像がわからない。
 もうこれ以上放置できない。長く北朝鮮を取材してきた石丸次郎さんらは、2018年に「『北朝鮮帰国者』の記憶を記録する会」を立ち上げた。調査対象は北朝鮮から命がけで脱出した人々。いわゆる「脱北者」の中で、かつて日本から「帰国」した50名へのロングインタビューに成功した。
 帰国者たちの記憶はもれなく、全身が崩れ落ちるような衝撃から始まる。章タイトルにもなった「清津チョンジンショック」とは、北朝鮮の清津の港で初めて見た祖国の有り様への絶望だ。サブタイトルには「騙された」とある。誰が騙したのか? 帰国者が信じたのは北朝鮮や朝鮮総連のプロパガンダだけではなかった。本書には当時北朝鮮を礼賛した日本人ジャーナリストの名前も繰り返し登場する。
 飢えと貧困、密告と収容、90年代の大飢饉と社会的混乱。時代ごとで共通する個人の記憶は集団の記憶となる。一方で暮らし向きの格差は北朝鮮社会の実態を反映している。
 凄惨な記憶を語る帰国者に、石丸さんはすがるような気持ちで訊く。
「北朝鮮で幸せを感じたのはいつだったか?」

伊東順子

いとう・じゅんこ●ライター、編集・翻訳業

『証言・北朝鮮帰国者 祖国に渡った「在日」はどう生きたか』

「北朝鮮帰国者」の記憶を記録する会 編

発売中・集英社新書

定価1,870円(税込)

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