[本を読む]
日本社会を蝕む黒い構造
現実に起きた事件を題材にとる作品は多いけれど、月村了衛の『テロル』ほど大きなインパクトをもたらすフィクションもそうはない。
主人公〈おれ〉は
事件の映像に強い衝撃を受けた三上は、少しでも松原への理解を深めようと宗教二世のための交流勉強会に参加し、そこで
世間から「インセル」「弱者男性」「チー牛」と揶揄される底辺男性のひとりだった三上が、誰もできない“偉業”を成し遂げた松原に心酔し、自分も松原のようであらねばならぬと思い定め、考え行動する。その過程で作者は、国が国民を欺き、格差や差別を助長し、我々は我々で明らかなデマに簡単に踊らされといった、日本社会を蝕む黒い構造の数々を明示し、批判していく。そうした批判は三上を通して放たれるので、読者には悲鳴のように鋭く突き刺さるのだ。
物語終盤、さまざまな経験を通して認識を深めた三上は自分なりの「テロリスト」「テロリズム」の定義を獲得し、松原との一体化を果たす。その光景がもたらす空虚と絶望に思わず共感を覚えてしまう自分が、わたしは怖い。
豊﨑由美
とよざき・ゆみ●書評家、ライター





