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吉川永青ながはる『黒い肌のサムライ 信長との短き日々』を細谷正充さんが読む

[本を読む]

織田信長に仕えた黒人が知った、天下人の真実。

 戦国時代、織田信長に仕えた弥助やすけという黒人がいた。本書は、その弥助の日本での日々を描いた歴史小説である。
 アフリカ出身のヤスフェは、イエズス会のヴァリニャーノ神父の奴隷として、日本にやってきた。神父の日本巡察が終われば、奴隷身分から解放するという契約で買われたのだ。しかし織田信長に興味を持たれたことから、進物として差し出される。なぜか信長に気に入られ、弥助と名付けられた彼は、小姓に取り立てられた。弥助を忌み嫌う小姓の森乱丸から仕事を学び、戸惑いや悩みを抱えながら、一生懸命に生きていく。
 奴隷の身分から解放されたものの、日本という異国は分からないことだらけ。しかも信長と、小間使いの少年を除けば、周囲の人々から隔意を抱かれている。さらに普段は優しいが、規則を破った者を処刑したり、戦で敵を大量に殺す信長に、不安や恐れを感じたりする。思いもかけない運命に翻弄されながら、自分の生き方を見出していく、主人公の姿が大きな読みどころだ。
 一方、弥助の視点で捉えた信長像も見逃せない。弥助が自分と似ているという信長の真意はどこにあるのか。信長を見つめ続けていた弥助は、天下人が抱える理想と現実のギャップを知り、ついにひとつの結論に至る。なるほど、この結論のために、弥助が主人公に選ばれたのかと、作者の企みに感心した。さらに明智光秀が謀反に至る流れにも、独自の工夫があった。
 また、最初は弥助を嫌っている乱丸も、重要な存在だ。黒人であることや、信長に気に入られていることへの嫉妬心で、弥助に強く当たっていた乱丸。しかし常に一生懸命な彼の姿勢を見て、しだいに認めるようになっていく。人種差別や、意外な角度から語られる男女平等論など、現代と通じ合う問題も、しっかり書かれているのだ。複数の要素を盛り込みながら、ゲームやコミック等の影響によって、今やYASUKEの名で世界的に有名な人物を、鮮やかに表現した快作なのである。

細谷正充

ほそや・まさみつ●文芸評論家

『黒い肌のサムライ 信長との短き日々』

吉川永青 著

5月26日発売・単行本

定価2,640円(税込)

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