[特集インタビュー]
繫がりの物語
「ザ・チェインスモーカーズの楽曲をモチーフに物語を作ってくれませんか?」
二〇二一年十二月。集英社の担当編集者さんを介して、そのような依頼をいただいた。『ザ・チェインスモーカーズ』は二人組の音楽グループで、本国アメリカでは多くの若者から支持を得ている。日本の若者に対してもさらなる認知拡大のため、書き下ろしのショートストーリーを僕が考え、イラスト動画として構築、TikTokで発信するという企画をご提案いただいたのだ。
「チェインスモーカーズ、知ってますか?」
「あー、はいはい。チェインスモーカーズですね。何曲か聴いたことはありますね、はい」
僕は噓をついた。流行についていけてない中年だと思われたくなかったのだ。
それにしても面白い企画だ。今までは自分が書きたいテーマから物語を考えてきたので、決められた楽曲からストーリーを発想するというアプローチには心惹かれるものがある。とはいえ、歌詞の内容をそのまま物語にしても芸がない。音楽会社さんからも「歌詞のワンフレーズは活かしつつ、それ以外はオリジナルの物語で構いませんよ」と仰っていただいた。よし、ではやってみよう。これまでにない発想。これまで触れたことのない音楽。脱おじさんを目指して物語を考えはじめた。
本企画は、チェインスモーカーズの〝チェイン〟を取って『ザ・チェインストーリーズ』と言った。一分程度のストーリーを全部で六編考える。〝チェイン〟というからには、ストーリー同士を結ぶなにかしらの〝繫がり〟が必要だ。そこで思いついたのが『指輪』だった。しかもただの指輪じゃない。『運命の赤い糸が見える不思議な指輪』だ。
ある人は望んでいた人と赤い糸で繫がっていないことに落胆し、ある人は「まさかあの人と……」と驚く。ひとつの指輪を通じて様々な恋模様を描いていこう。
とある出張中、飛行機に乗る前にラウンジでそのコンセプトを思いついた僕は、搭乗後、空の上で各話の詳細を考えはじめた。そして目的地に着く頃には六編すべてを完成させた。あのパズルが上手くはまったような感触は今もよく覚えている。まさに会心の一撃。その証拠に、飛行機から一歩外へ出た瞬間、僕は五歳くらい若返っていた。青年時代のフレッシュさが全身を包んでいた。
帰宅後、機内で考えた物語に肉付けをして、文章にまとめ、数回の打ち合わせを経て、『ザ・チェインストーリーズ』はTikTokで配信された。それから数年―。
僕は前よりおじさんになっていた。ひどい腰痛。ひどい肩こり。慢性的な運動不足。出版社からは「そろそろ次の小説を」と言われている。はてさて、困った。どてら姿でカップラーメンを啜りながら、ため息を漏らす日々を過ごしていた。
そんなとき、ふと『ザ・チェインストーリーズ』のことを思い出した。あれはなかなか良い出来だった。あの物語をさらに発展させて、連作短編集にするのはどうだろう? 音楽会社からもご快諾をいただき、『いつか君が運命の人』とその名を改め、小説として走り出した。
小説化にあたり、新たな試みをしようと思った。『桜のような僕の恋人』以降、僕はずっとラブストーリーを書いてきた。今回は恋愛だけに留まらず、様々な人間模様を描いてみよう。運命の赤い糸が基本設定だから恋愛要素は欠かせない。しかし、それだけではない人間模様も織り交ぜて、幕の内弁当のようなたくさんの味を楽しめる一冊を目指した。女子高生の若々しい恋物語もあれば、人生に悩む女の子の成長もある。友情や親子の物語もある。これまで扱ってこなかった種類のストーリーは書いていて胸が躍った。もちろんどのお話も気に入っている。その中でも特に『わたしのものって思ってもいいですか?』と『わたしが求めているもの』の二編には強い思い入れがある。この二つを書いたことで、自分の新たな可能性を見つけられた気がした。最初は依頼仕事だったけれど、まさかこんなふうに自己成長に繫がるなんて。物語とは不思議なものだと改めて感じさせられた。
そうして二〇二三年に世に出した本作が、この五月、ついに文庫化される。文庫版では、新たに三編の物語を書き加えている。
本作は、人の手から人の手へと指輪がめぐってゆく姿を描いている。しかし単行本の際、その変遷を一部省略した。すべてを描かずに幾分かの余地を残したのだ。いつかどこかで書けたらな……と思っていた。
その物語を書き下ろし、『完全版』としてお届けする。初めて読む方はもちろん、単行本をお読みくださった方々にも「あの人とあの人の間には、こんな物語があったんだ」と思ってもらえたら嬉しい。そして、この物語が多くの方々と運命の赤い糸で繫がっていることを心から願っている。
宇山佳佑
うやま・けいすけ●作家、脚本家。
神奈川県生まれ。2011年『スイッチガール‼』で脚本家デビュー後、15年『ガールズ・ステップ』で小説家デビュー。著書に『桜のような僕の恋人』『今夜、ロマンス劇場で』『この恋は世界でいちばん美しい雨』『恋に焦がれたブルー』『風読みの彼女』等がある。






