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西村 章『高額療養費制度 ひろがる日本の<健康格差>』(集英社新書)を岩本菜々さんが読む

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「命の選別」はいつ誰に矛先が向くかわからない

「医療費削減」の大義名分のもとに、誰かが生きることを諦めなければならないとすれば、そんな社会を私たちは望むのか。
 本書のテーマは、高額療養費制度である。医療費負担が一定額を超えた場合にその超過分が払い戻される制度で、がん患者や難病患者にとっての「最後の砦」となってきた。しかし今、その「砦」が切り崩されようとしている。本書では、自らも難病患者としてこの制度を利用してきた著者が、複雑な制度の内実をわかりやすく解説し、近年政府が進める制度「見直し」の問題点に迫る。
 2024年以降、政府は患者の自己負担上限額の引き上げなどを進めている。当初提示された引き上げ幅は、制度を利用する多くの患者を、WHOが定義する「破滅的医療支出」に追い込みかねないほどの上げ幅であった。なぜ、患者の生命をおびやかしかねない制度変更が、突如として進められたのか。著者は、制度改悪を阻止する運動の過程で積み上げられた研究者・当事者団体による豊富なデータと、8人の有識者へのインタビューをもとに、その政策的背景と、制度変更がもたらす影響を丁寧に検証していく。興味深いのは、制度見直しにあたり首相や厚労相が繰り返した「高額療養費が上昇しているため」「制度の持続可能性を担保するため」というもっともらしい説明とは裏腹に、この見直し案が、少子化対策の財源の捻出に向けた議論の上で浮上したという事実だ。
 昨今、選挙のたびに「医療費増大が現役世代の手取りを圧迫している」という主張が繰り返され、危機感が煽られている。「社会保険料を削減する」「子育て世帯を優先する」といえば聞こえはいい。しかしそれは「優先すべき命」と「そうでない命」の選別に繫がりかねない危うさをはらんでいる。そして、その選別の矛先は、いつ誰に向くかわからない。高額療養費制度をめぐる動きにいち早く着目し、その影響を緻密に検証した本書は、私たちがどのような社会に生きたいのかを問う、今こそ読まれるべき一冊だ。

岩本菜々

いわもと・なな●NPO法人POSSE代表

『高額療養費制度 ひろがる日本の<健康格差>』

西村 章 著

発売中・集英社新書

定価1,155円(税込)

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