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白川紺子『いばら公爵の花嫁 賭けをしましょう、旦那様』(集英社文庫)を藤田香織さんが読む

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もう恋なんてしないと思う心がぎゅんぎゅん震える物語!

 世知辛く、ままならない昨今のリアル社会において、手間暇のかかる恋愛は贅沢でしかない。もはや個人的にはキュンときたら、恋より心筋梗塞の不安がよぎる。そうした傾向は小説にも顕著で、恋愛小説はめっきり少なくなった観がある。
 ところが。本書は、まごうかたなき恋愛小説である。ド直球と言ってもいい。
 主人公となるのは伯爵家に生まれ育った十七歳のジゼル。しかし父は宮廷内での政争に敗れ失脚し、財産を没収され失意のうちに病没。壮麗な館も失うことになり、行き場のないジゼルは亡き父と親交のあった商人に愛人として引き取られることになるが、そこへ突然、名門公爵家のバートラムが訪れ、生前の伯爵との約束=娘が十七歳になったら結婚する、を果たしに来た、と言い出した。
 かくしてジゼルは商人の愛人ではなく、初めて会った公爵の妻に迎えられることになるのだが、「人嫌い」で有名なバートラムは、自分には近づかず、話しかけず、視界に入るな、と条件を出す―。
 美しいだけのお人形ではないジゼルには、いつか失った伯爵家の財産=所領を、領民を、名誉を取り戻したいとの強い願望があり、恐ろしげな噂が飛び交い「血薔薇公爵」と揶揄やゆされるバートラムにも、反逆罪で処刑された父親の汚名をそそいだ壮絶な過去があった。互いに棘をもつふたりの距離がどのように近づき、認め合い、愛を育むまでに至るのか。その、甘さと塩味の塩梅あんばいが絶妙で、これが噂に聞く「キュン死」か! と何度も身悶えてしまった。
 と同時に、従者や領民、女好きで自由奔放な王太子・レオナルドとの関係性とその変化を通じて、「お嬢様」でしかなかったジゼルが少しずつ変わっていく姿も読ませる。騙し騙され、痛みを伴う駆け引きもある。ただひたすらに甘いだけでは生まれない「うま味」が効いている。
 久しく忘れていた感覚を思い出させてくれる、これは幸せの物語だ。

藤田香織

ふじた・かをり●書評家

『棘公爵の花嫁 賭けをしましょう、旦那様』

白川紺子 著

発売中・集英社文庫

定価704円(税込)

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