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小路幸也『アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド 東京バンドワゴン』
僕の描く恋や家族の話にはいつも「仲問」というベースがある

[インタビュー]

僕の描く恋や家族の話にはいつも「仲問」というベースがある

東京の下町で老舗古書店〈東亰とうきょうバンドワゴン〉を営む大家族・堀田ほった家を描いたホームドラマ、小路幸也さんの人気シリーズ第21弾『アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド 東京バンドワゴン』が刊行されます。タイトルになったビートルズの曲の邦題は「抱きしめたい」。それにちなんで、今作は全編にわたって若い人たちの結婚や恋愛模様が軽やかに展開していきます。堀田家の面々は、ほどよい距離を保ちつつ、彼、彼女たちのお悩みや葛藤を解決する手助けも。
もちろんその合間には、お約束のミステリーな事件も勃発。小路さんお得意の仕掛けや謎解きには毎回感心させられます。我南人がなとの次男・あおが中心となって進める音楽や芸術の発信地となる「ステージバス」も、いよいよ始動開始。また、冬の章では、猫好きな読者がほっこりなごむお話も。そんな盛りだくさんの本編について、小路さんに執筆中の工夫や思いを伺いました。

聞き手・構成=宮内千和子/撮影=川尻亮一

今回は全編、「抱きしめたい」恋の話にしよう!

──今回は、各章でいろんな恋愛、結婚事情が展開されて、まさに「LOVEだねぇ」のお話満載ですね。このテーマは、ビートルズの「抱きしめたい」に触発されての発想ですか。

 次のタイトル曲を何にしようと考えるときに、『ビートルズ全詩集』をいつも手元に置いてあるんです。どれにしようかなと思って本を見ていたら、まだ「抱きしめたい」使ってなかった、よし、今回はこのタイトルで、全部恋の話にしたいと。前にも言いましたけど、長いシリーズで大きな事件を起こしちゃうと、次もまた大きな事件、またさらに大きな事件と、どんどん話がインフレしちゃうので、それだけはしないように毎回抑え気味にしています。全編が恋と家族の話であればすーっと流れていけるので、すべての章で恋人同士がくっつく話にしちゃおうということにしました。

──具体的なお話は本編を読んでのお楽しみですが、恋愛とか、結婚とか、妊娠とか、そういう話が5カップルぐらい出てきますね。

 そうですね。妊娠の話は、ちょっと迷いました。妊娠という生々しい話を最後のほうに持ってくるのはどうなのかなと。でも、家族の話だし、そういうのは絶対つきものだろうしなと。かといって、堀田家のメンバーの妊娠騒ぎは今はできないので、誰かいるかなあと思って探したら、ああ、彼らがいるじゃんと思って(笑)。またそういうふうに思いつくとちょうどいい配置になっているんですね。そこはスムーズにいきました。

──そしてシリーズ第16弾、ロンドンが舞台となった『グッバイ・イエロー・ブリック・ロード』で活躍したジュン・ヤマノウエが満を持して登場。彼女の恋話もありつつの、彼女の実家が日本のある家系と深いつながりがあるということが分かってくるというミステリー仕立てになっている。引き込まれますね。

 ジュン・ヤマノウエもいつ出そうかとずっとタイミングを考えていたんですが、彼女が恋人と一緒に暮らすことになって、ハネムーンもどきで来日するということで、うまくつながりました。彼女の実家が日本にあることは分かっていましたから、今はだれも住んでいない実家の由来をきちんと片づけようと思いまして。で、さてどうやって片づけようかなと考えたときに、研人けんとのミュージシャン仲間と絡めれば楽しいかなと思いついたんです。

──勘一かんいちの岡山旅行に絡んだ恋の話とお寺の古本屋の謎解き話も面白かったです。小路さんの物語には常にこういう仕掛けが用意されているのが楽しいし、読者を飽きさせませんね。

 ありがとうございます。お寺の古本屋の話もずっと温めていて、いつ使おうかと考えていたんですよ。謎解きの話は、あのとき見ていたNHK大河ドラマ「べらぼう」に刺激を受けて、判じ絵とか江戸物を出してみました。ああいうのを考えるのは結構得意なんです。

古時計と、猫と、執筆ときどきふたりで散歩

──NHKといえば、小路さん、昨年12月に放送されたEテレ「ネコメンタリー 猫も、杓子しゃくしも。」に出演なさいましたね。猫ちゃんとの暮らしも楽しかったんですけど、小路さんがふだんどういうところで書いていて、どう暮らしているのかがかいま見えてすごく面白かったです。そういう話を今度お会いできたらしたいなと思っていたら、冬の章に丸々出てきました(笑)。

 ああいう狭いところで書いています(笑)。

──狭くないじゃないですか。一軒家ですよね。はりとか、結構高いところがいっぱいあって、猫ちゃんにはすごくいい環境でした。

 スウェーデンハウスというハウスメーカーで、もともとがああいう形なんですよ。「ネコメンタリー」の撮影は、2025年の8月の暑い時季にやったんですが、プロデューサーとディレクターとカメラマン三人でやってきて、5日間、日中から夜まで撮影していました。うちにテレビロケが入ったのは初めてで、なかなか面白かったんですが、動物を撮るカメラマンは大変ですよ。ずーっと猫を追ってますからね。動かない猫を三脚一個で撮っていて、ちょっと動いたと思ったら、すぐさまカメラを手持ちにして低い位置で追っていったりとか、本当にカメラマンは体力が必要だなと思いましたね。それだけでは足りずに、廊下にカメラを仕掛けたり、ディレクターも自分のiPhoneで別の角度から猫の動きを撮っていたりして。

──まさに堀田家も同様の撮影取材を受けることになりますね。

 そのときはまったく思っていなかったんですけど、書き始めてから、そういえばあれネタに使えるじゃないかと思って、そのまま使わさせていただきました(笑)。

──小路さんのお家に、堀田家にありそうな、大きくてかっこいい古時計がありましたね。

 僕の妻の実家が三代続いたそば屋だったんですね。僕らが結婚してしばらくして跡継ぎがいないので閉めちゃったんですが、あれはその店にずーっとかかっていた時計なんですよ。めっちゃ古いんです。

──ねじを巻くんですか?

 そうなんです、ねじを巻くの。ボーン、ボーンという音が遅くなってきたなと思ったら、僕か妻、気づいたほうがねじを回すという感じです。あの部屋に大きなテーブルが置いてあったのもちらっと映ったと思うんですけど、あれもそば屋さんに置いてあったんですね。長さが5メートルぐらいある一枚板のテーブルで。昔ながらのそば屋さんによくあるどっしりとしたやつ。一枚板だからめちゃくちゃ重くて2階の床が傾いちゃいました。

──執筆の合間に、雄大な田園風景の中を奥様と二人で散歩されていましたね。やっぱり北海道は広さが全然違います。

 天気のいいときに歩くかという感じで、妻と二人で週に2、3回ね。だって全く動かないですからね、僕。ずーっと家にいますから、ウォーキングでもしないとどんどん体が弱っていくから。ちょっと前までは一人で結構走ってたんです。5キロ、6キロ、8キロぐらいぐるーっと回って帰ってくる。でも、さすがに年を取ってくるとランニングはきつくて、妻と一緒のウォーキングに変えたんです。北海道は広さだけはあるので気持ちいいですよ。

僕ね、コンサートの照明もできるんですよ

──恋の話と並行して、音楽や芸術の発信地となる「ステージバス」の準備が青を中心に着々と進められていますね。

 うん、ステージバスの話も出さなきゃならないので、メインの話の邪魔をしないように配分に気を付けて、恋の話と絡めながら、うまく散らして入れ込みました。

──堀田家にはミュージシャンや画家、俳優、作家もいて、ある意味芸術の発信地でもある。小路さんご自身も昔音楽をやっていたわけで、こういう「ステージバス」のような構想は、以前からあったんですか

 それに近いことを実際にやってましたからね。20歳ぐらいのとき、仲間で音楽をやっていたころは、キーボードとかシンセサイザーなどのデジタル楽器が出てきた時代だったんですよ。それで当時の最新のデジタル楽器を借金して買いそろえて、それをアマチュアミュージシャンに貸し出したりしてた。つまり、マンションを借りて、今の音楽事務所みたいなものをつくってビジネスにしていたんですよ。

──へえー。それは初めて聞きました。だからステージバスの運営描写が具体的でリアルなんですね。

 短い期間ですけれど。僕自身もコンサート照明の会社でアルバイトをしていたので、僕、照明もできるんですよ。楽器もスタッフもそろえて、僕らの事務所でコンサートができますよというのが売りで。

──じゃあ、そのときのノウハウが小説に役立った。

 うん、そのときに、コンサートの呼び屋さんや照明のプロとも付き合いがあったし、いろんな人と関わってやってきたので、その辺のバックグラウンドの経験値は全部、バンドワゴンに入っていますね。音楽だけでなく、その後、僕は広告業界に入ってイベントプランナーになったので、その経験値も役立っていると思います。それこそコンサートもやったし、舞台もやったし、若いころから仕事としていろんなことやってきて、さらにやりたかったこともいっぱいある。ステージバスの構想には、そういう経験から出てきた僕のやりたかった理想みたいなものも入ってると思います。

ホームドラマそのものが「仲間」のお話なんです

──「べらぼう」に刺激を受けたとおっしゃっていましたが、江戸時代は、何かを創作するときは、みんなでああだ、こうだと言って、共同体で文化を発信していましたよね。ああいう雰囲気はステージバスにもつながるのかなと思うんですが。

 十分につながるものだと思いますね。そもそもステージバスの発想は、堀田家にはミュージシャンもいるし、作家もいるし、俳優もいるし、いろんな連中がいるんだから、全部まとめちゃえばいいじゃんというところから出てきたものだから、まさに共同体、仲間です。ちょっと前の回で研人に言わせたんですが、堀田家の人々は家族というより仲間だよねという感覚。そういう感覚が研人の中にはあって、その感覚は僕の感覚でもある。

 僕の書いてるものは、結局そこに行きつくんですよ。仲間って、基本的に楽しいじゃないですか。そもそもホームドラマ自体、仲間の物語だと思うんですね。一つの家族を中心にして様々な人たちがいっぱい集まってきて、そこで生まれるドラマがホームドラマなのであって、そういうものを書こうと思って書いたのが「東京バンドワゴン」なんですから。

──以前のインタビューでも、ずっと仲間が欲しかったとおっしゃっていましたよね。

 そうですね、僕は全然意識してなかったんですけど、子供のころから、仲間というものが本当に欲しかったんだろうなと、書いていて気づかされます。僕の中にあるそういう気持ちが、自然と創る物語の中にも出てきているんだろうなと。「東京バンドワゴン」以外の僕の物語も、振り返ると、ほとんどが仲間がベースになっている話なんですね。もう一つシリーズになっているポプラ社の「花咲小路商店街」も、商店街という仲間のお話になっている。僕はそういうものが好きなんだろうなと思うし、そういうものが書きたい。

──恋愛でも家族関係でも、人間関係の豊かさは、仲間がいることによってつくられている部分がすごくありますよね。

 そうですよね。人間の社会自体が共同体ですよね。仲間同士で生きていくのが社会なわけで、そこはきちんと描いていきたい。僕ら表現者がやっているのは、生きる人々の娯楽ですよね。娯楽、楽しみを提供して、それで食わせてもらっている人間としては、そのベースとなる仲間のありようはちゃんと描いていかなきゃならないと思っています。いろんな物語を書く人はいるけれども、その中で僕はとくに仲間ベースの物語を描いていったほうがいいんだろうなと。そのほうが自分も楽しいし、読んだ人にも楽しんでもらえばさらにうれしい。そういうのがいいなとは思いますね。

──小路さんの考える仲間の関係性は、寛容で広いですね。堀田家の人たちも同じですね。今回はロンドンからヤマノウエカップルも仲間に加わったし、毎回ちょっとずつ増えています。その仲間たちとの距離感もべたべたしていなくて、風通しがいい。しかも、生きている人だけでなく、堀田家の守護神でもあるサチという死者の語り部とも温かいきずなでつながっているんですよね。

 うん、そうね。そこにいる人たちだけじゃなくて、死んだ人とも仲間としてつながっている。生きていくってそういうことなんだと思う。だから「東京バンドワゴン」が続く限り、仲間というものがずっとベースにあるんだろうなと思います。

──最後になりましたが、主人公の勘一がついに卒寿(90歳)になりました。でも、肉体は60代と書いてあって、まだまだかくしゃくとして事件にも絡んできています。

 前から言ってますが、勘一がいつ天国に召されるかは結構肝なんですが、今のところ95歳までは多分大丈夫かなと(笑)。番外編が途中で入ると年は取らないので、勘一が95歳になるまでにはあと7年ぐらいはかかるのかな。

──それまでは「東京バンドワゴン」シリーズは安泰ですね。

 いやいや、突然打ち切りになるかもしれないし、ただただ僕は面白い作品を頑張って書いていくだけです。次の第22弾もぜひご期待ください(笑)。

●「東京バンドワゴン」シリーズの既刊情報は、特設サイトでご確認ください。

小路幸也

しょうじ・ゆきや●作家。
1961年北海道生まれ。著書に「東京バンドワゴン」シリーズ、「花咲小路」シリーズをはじめ、『空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction』(メフィスト賞)『Q.O.L.』『東京公園』『素晴らしき国 Great Place』『マンション フォンティーヌ』『バイト・クラブ』『A DAY IN YOUR LIFE』等多数。

『アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド 東京バンドワゴン』

小路幸也 著

4月24日発売・単行本

定価1,925円(税込)

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