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ディストピアの追体験
遠野遥がディストピア小説を書くとこうなるのか、という驚き。スターバックスやABEMAといった実在する固有名が物語世界に登場するとき、そこが遠く隔たった架空の王国ではなく、読者たる私たちと地続きの世界だとの錯覚が起きる。感染症が蔓延し、東京五輪が開催される、少し前の日本。だがこの物語で女たちは自由意思を持たない。
語り手は二人。一人は
有紗の父親はフードの配達人だ。経済的に無理をするのは、娘をよりよい結婚相手に嫁がせたいから。富裕層の男性は最大二人まで妻帯でき、最短で半年ごとにその妻を交換できるのだ。
もう一人の語り手は医師の白井だ。
SF的なガジェットは投入されない、並行世界的なディストピアにあって、女性たちは歴史の学習を禁じられ、筋トレも禁じられ、と思えば、流行の
マスキュリニティは世界に浸透しきっている。法改正や刑罰の厳罰化が、人間の深層の差別意識を変えられるのかという問題も浮き彫りになる。白井は生身の妻ではなく、妻という概念を
江南亜美子
えなみ・あみこ●書評家





