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人生は祭りだ。滋賀×スニーカー×ヒップホップ×ヤンキー青春小説
短編集『すべての原付の光』で鮮烈な単行本デビューを飾った新鋭・天沢時生(1985年、滋賀県近江八幡市生まれ)。その第一長編『キックス』は、滋賀から天下を取りにいく話である—とか書くと「成瀬あかりかよ!」とツッコまれそうだが、成瀬が歩くのが陽の当たる大通りなら、本書の目標はダークサイドのてっぺん。『男一匹ガキ大将』的なバンカラからゾクとヤンキーを経てギャングスタ・ラップに至る不良文化に“神のキックス(スニーカー)”を授けて、頂点へと駆け上がる。
主人公の大学生・
小説のテーマは偽物と本物。葬儀のため温哉の郷里の近江八幡市を訪れた薫は、湖東エリアのバイカーギャングチーム、『
「思い出もノスタルジーも要らねえ。置き去りにしろ」「神もビビらせるヤバいスピードで!」とキングに活を入れられた薫は、「贋作を真作に変える。愛をとりもどすのだ」と宣言し、温哉の偽物である行哉と組んで贋作商売に乗り出す。
と、ここまでが全5章のうちの第1章。小説は、時に即物的、時にエモーショナルなリリックを個性的なフロウで刻みながら、破滅(“全部滅茶苦茶になって頭はパー”)に向かって、祭りの熱狂に向かって突き進む。作中ではフェリーニ『8½』の台詞「人生は祭りだ。共に生きよう」が引用されるが、これは令和の『明日に向って撃て!』かもしれない。
大森 望
おおもり・のぞみ●翻訳家・書評家





