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天沢時生『キックス』を大森 望さんが読む

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人生は祭りだ。滋賀×スニーカー×ヒップホップ×ヤンキー青春小説

 短編集『すべての原付の光』で鮮烈な単行本デビューを飾った新鋭・天沢時生(1985年、滋賀県近江八幡市生まれ)。その第一長編『キックス』は、滋賀から天下を取りにいく話である—とか書くと「成瀬あかりかよ!」とツッコまれそうだが、成瀬が歩くのが陽の当たる大通りなら、本書の目標はダークサイドのてっぺん。『男一匹ガキ大将』的なバンカラからゾクとヤンキーを経てギャングスタ・ラップに至る不良文化に“神のキックス(スニーカー)”を授けて、頂点へと駆け上がる。
 主人公の大学生・佐治さじかおるは、バイト先のカラオケ店で知り合った深海しんかい温哉はるやと映画を通じてマブダチになる。吉祥寺のスニーカー店に勤めていた温哉は、サイファー(ナイキみたいな人気ブランド)とのコラボ企画コンペで優勝したのをきっかけに、天才シューズデザイナーとして世界を席巻。彼のキックスの試作品には5億8000万円の値がつく。しかし温哉は、オリジナリティなんかくだらない、どんなにデカい噓だって、き通せば本当になると言い放つ。そんな温哉の言葉をライターとして世界に伝える薫。だが、二人の蜜月は温哉の自殺で唐突に幕が引かれる。
 小説のテーマは偽物と本物。葬儀のため温哉の郷里の近江八幡市を訪れた薫は、湖東エリアのバイカーギャングチーム、『霊車会レイカーズ』と出会う。彼らを統べる『キング』は、凄腕のキックス贋作師にして、温哉の双子の弟、深海行哉ゆきやだった。
「思い出もノスタルジーも要らねえ。置き去りにしろ」「神もビビらせるヤバいスピードで!」とキングに活を入れられた薫は、「贋作を真作に変える。愛をとりもどすのだ」と宣言し、温哉の偽物である行哉と組んで贋作商売に乗り出す。
 と、ここまでが全5章のうちの第1章。小説は、時に即物的、時にエモーショナルなリリックを個性的なフロウで刻みながら、破滅(“全部滅茶苦茶になって頭はパー”)に向かって、祭りの熱狂に向かって突き進む。作中ではフェリーニ『8½』の台詞「人生は祭りだ。共に生きよう」が引用されるが、これは令和の『明日に向って撃て!』かもしれない。

大森 望

おおもり・のぞみ●翻訳家・書評家

『キックス』

天沢時生 著

3月26日発売・単行本

定価2,530円(税込)

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