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今月のエッセイ/本文を読む

佐原ひかり『ペーパー・リリイ』(集英社文庫)
どうやってお話を考えるんですか?

[今月のエッセイ]

 訊かれやすい質問のひとつに、「どうやってお話を考えるんですか?」というものがある。気持ちはわかる。私も訊きたい。私はノリとバイブスで書いているタイプの小説家なので、これといったメソッドを持っていない。ピコ太郎のPPAPではないが、題材と思いつきをアーンッしたらなんとなく一作できる。と、取材などでは答えるようにしている。そっちのほうが天才肌っぽくてかっこいい感じがするし。
 とはいえ、これではあまりに再現性がない。今後のためにも、ここで一度言語化しておいたほうがよさそうだ。それに、起承転結についてはPPAP式だが、設定についてはあれこれ考えて作り上げている気がする。書いている最中や直後には言語化できないが、あとあと─文庫化のタイミングぐらいで振り返ってみると、思考の道筋が見えたりする。
 たとえば、このたび集英社文庫から刊行される『ペーパー・リリイ』のこしらえ方はこうだ。
 夏が好きだ。夏の話が書きたい。あと、風景もたくさん書きたい。それなら、夏のロードノベルなんかよさそうだ。先行作品はなんだろう。思い浮かぶのはロードムービーばかりだ。『テルマ&ルイーズ』『ペーパー・ムーン』『菊次郎の夏』……。とりあえず二人組が要りそうだ。できればでこぼこコンビがいい。ジュブナイルものにしたいから、ひとりは十代の少女がいい。相方はどうしよう。同性、異性、年上、同い年、年下……組み合わせていく。うーん、どれもいい感じだけど決め手がない。あ、でも車を運転させるなら年上のほうがいいか。免許持っててほしいし。同い年で『スタンド・バイ・ミー』をやってもいいけど、今回はドライブしててほしい。よし、なら年上。性別は……まあ、『テルマ&ルイーズ』が好きだから同性としよう。女ふたりのハチャメチャ夏旅、書いてるこっちも絶対楽しいし。年齢はある程度離れているほうが書きでがありそう。性格も、今の私の力量的には対比させたほうがよさそうだ。さて、ここで「飛び道具」を考えなくてはいけない。女ふたりの夏ロードノベルを推進していくフック的なものを。なんだろう。なんも思い浮かばない。こういうときは名作からヒントをもらうにかぎる。『テルマ&ルイーズ』『ペーパー・ムーン』『菊次郎の夏』……「ペーパー」よくないか? ペーパーなんとかって響き、おしゃれな気がする。よし、タイトルはペーパー・○○にしよう。ひと夏の旅に「かりそめ」っぽさが生まれた。いい感じだ。じゃあ次は、「かりそめ」っぽいものをいくつか考えよう。その場かぎり、間に合わせ、まがい物、にせもの、にせものの関係、偽装結婚、結婚詐欺……。

 こうして生まれたのが、結婚詐欺師に育てられた少女・あんと、詐欺師に騙された女・キヨエのひと夏の旅『ペーパー・リリイ』だ。
 ぜんぜんノリとバイブスだけではない。めちゃくちゃ考えている(上手く抽象化すればメソッド化できそうだ)。お話を考えるとき、私はよくこの手法を用いがちだ。先行作品から自分の好きな要素を良い所取りする。なので私は、小説の執筆とは「0から1を生み出す」のではなく、「100から1を生み出す」作業だと思っている。また、作家に求められるのはクリエイティビティだと思われがちだが、個人的には、話を作る力よりも、虚構を虚構として描き切る力のほうが必要だと考える。
 たとえば、私は『ペーパー・リリイ』を真冬に書いた(文庫化の作業も秋冬だった)。居眠り対策として部屋の窓をすべて開け、寒風に凍えながら焼け付くような真夏の太陽を描いた。狭いワンルームで分厚い半纏はんてんを羽織りながら、汗みずくで夏を駆け抜ける女たちを書いた。
 これが小説執筆のおもしろくも難しいところだと思う。作中の季節も状況も、作者の現実世界とは関係してくれないのだ。真冬だろうと真夏の話を書かざるをえないし、作家と呼ばれる人たちはそれができる。「うそもの」の世界を言葉だけで精巧に作れてしまう。
 私たち小説家は噓をつくのがかなり上手い。
「ノリとバイブスで書いてます」と言いながらガチガチに論理立てて書いているかもしれないし、そうと見せかけて実は字数稼ぎ用の急ごしらえメソッドを披露しているだけかもしれない。
 なので読者のみなさま、そんな作家が書いたものを読むときは、くれぐれも油断されませぬよう。ここは、顔の見えない相手が生み出した言葉だけの世界。「うそもの」の世界の中でさらに噓をつくこともあります。『ペーパー・リリイ』を読むさいも、どうかお気をつけて!

佐原ひかり

さはら・ひかり●作家。
1992年兵庫県生まれ。2017年「ままならないきみに」で第190回コバルト短編小説新人賞、19年「きみのゆくえに愛を手を」で第2回氷室冴子青春文学賞大賞受賞。21年、同作を改題加筆した『ブラザーズ・ブラジャー』で単行本デビュー。著書に『人間みたいに生きている』『スターゲイザー』『リデルハウスの子どもたち』等。

『ペーパー・リリイ』

佐原ひかり 著

集英社文庫・発売中・定価748円(税込)

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