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アルテイシア×太田啓子
『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み
社会は勝手に変わるのではなく、いろんな人の努力で少しずつ変わる

[対談]

社会は勝手に変わるのではなく、いろんな人の努力で少しずつ変わる

全国の学校でジェンダーについての授業をおこなっている作家のアルテイシアさんと弁護士の太田啓子さん。新刊『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み』では、よく聞かれる49の疑問や悩みに二人が答えます。本の成り立ちから、10代のリアルなジェンダー意識まで。現場を知る二人の対談をお届けします。

構成=岩下 結(よりまし堂編集室)/イラスト=マシモユウ

作家と弁護士が共著を書いた理由

アルテイシア(以下、アル) 太田さんと私は日頃からジェンダーや性教育についておしゃべりするフェミ友で、ネットラジオ等でもよくご一緒しています。今回、初めて共著で本を出すことになりました。

太田 二人とも、中学生や高校生、あるいは保護者向けに学校でジェンダーのお話をすることがこの数年で急に増えたんですよね。

アル そうそう。特に、名門と呼ばれるような進学校や中高一貫の男子校でジェンダーの話をしてくれというリクエストが多くて。何かきっかけがあったと思いますか?

太田 私の場合、2020年に『これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)という本を出したのが大きなきっかけでしたね。この本の反響が大きくて、自治体の男女共同参画課や教職員団体などから講演依頼が相次ぎました。そのうちに、男子校の先生から「うちの生徒にジェンダーの授業をしてほしい」とお声がかかるようになり、先生どうしの口コミもあってか、じゃあ次は我が校で……と広がっていった感じです。

アル 私も地元・神戸の灘校をはじめとして、いろんな中学・高校・大学で授業させてもらってます。教職員の研修やPTA主催の講演会もあります。今回の本は、そういう中で実際に10代の生徒さんから出された質問や疑問に、私たちが対談形式で答える形になっています。

太田 結果的に、ジェンダー問題について話すとよく聞かれることのFAQ集みたいになりました。

アル あまりに同じ質問ばかり出るから、虎の巻っぽいものを作りたかったのもある。本になっていれば、ここに書いてあるから読んで! と言えるから。

太田 本当に、判で押したようにあちこちで同じことを聞かれますよね。「女性専用車両は男性差別じゃないんですか」とか「入試の女子枠は逆差別じゃないですか」とかね。

アル 「男性差別、逆差別」というワードが流行ってるよね。それって子どもが自分で考えてというよりは、SNSで見かけるアンチフェミ言説をそのまま吸収してるんだと思う。私が授業に来ると聞いて「ツイフェミを論破してやるぜ!」と息巻いていた男子生徒が、授業後に「思ったよりまともな人でした」「フェミニストのイメージが変わりました」と感想をくれたりする。どんなエキセントリックな人物を想像していたのか(笑)。

太田 ネット上では、そういう誇張されたフェミニスト像がばらまかれているからね。私も一部の界隈では表現の自由の敵、ファシストのように言われてますけど(笑)、萌え絵やアニメが悪いなんて言ってないんだけどな。

アル そのフェミニストを屛風から出してごらん、だよね。だからこそ、実際のフェミニストやフェミニズムに触れて中高生が学んでくれることは大きいと思う。実際、私の授業を受けた生徒さんから「自分もフェミニストだと気づきました」「性差別に加担しないためにもっと学びたい」といった感想をもらって、なんまいだぶ……と拝みたくなるよ。

太田 本当に。これから実社会に出たり、雑多なSNS情報に無防備に触れるようになる前に、ジェンダーの知識を得ておくことはワクチンのように働くと思います。

子どもが日常的に触れているネット情報の歪み

アル 先生たちの危機感もすごいよね。生徒が盗撮とかオンラインハラスメントの加害者や被害者になる可能性は常にあるし、男子校や体育会系のホモソ(ホモソーシャル=男どうしの仲間意識や同調圧力)ノリの中で、いじめや暴力事件を起こしてしまうケースもある。特に、いまの10代はSNSの影響をダイレクトに受けているから。

太田 SNSは大きいですね。伝播する速さと刷り込みの強度が従来の比じゃない。

アル でも先生も親たちも、子どもが実際にどんな情報に触れているか知らないよね。例えば2024年の小中学生の流行語にランクイ*1した「厳しいって」「危機感持ったほうがいい」、どっちもYouTuberのメンズコーチ・ジョー*2が元ネタですが、先生も親もほぼ知らない。

太田 「男磨き」「強い男を取り戻す」みたいなことであおるインフルエンサーですね。ああいうのを真に受ける子どもは大勢いそう。

アル 最近読んだ海外の記事だけど、男らしさを強調するコンテンツを多く見ている男の子の自己肯定感が下がるという調*3があるそうです。

太田 ありそうですね。そのままじゃダメだ、もっと努力しろと強迫観念を刷り込まれるんだものね。

アル SNSでは過激で極端な意見や、不安や怒りを煽る内容ほどPVを稼げる。「身長何センチ以下の男には人権がない」とかインフルエンサーの発言がバズると、授業でも「背の低い男には人権がないんですか?」と質問してくるので「過激な発言ほどバズるから、あなたのもとに届くんですよ」と説明してます。

太田 敵意や不安を煽って閲覧数を稼ぐことがお金になる仕組みができてしまっているからね。フェミニストやトランスジェンダーの人に対する攻撃も同じですよね。ミソジニー(女性嫌悪)のコンテンツ化は世界的な現象だと思います。

アル しかも、ひとつ情報に触れるとアルゴリズムが学習して、ますます同じような情報を見せられるから、どんどん認知がゆがんでしまう。なのに学校の先生たちもネットに詳しくない人が多くて、予防教育が足りない。私が「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」(同種の情報に囲まれることで偏った認知が強化される現象)の説明をしても、先生の10人に1人ぐらいしか知らないんですよ。メンズコーチ・ジョージも誰それ? ってキョトンとしてた。

太田 忙しくて手が回らないのかもしれないけど……。今の時代に子どもを誤った情報から守るには不安だよね。

アル だから、この本が学校の図書館とかにも入って、中高生が気軽に読んでくれたらいいなと思う。私たちが授業で教えられる生徒さんはごく一部でしかないので。

太田 日本でもようやくジェンダー教育や包括的性教育が普及しつつあるけど、かつての性教育バッシングで国際標準から20年遅れたと言われる停滞を取り戻すのは簡単じゃないですよね。

アル 一部のエリート校や、たまたま意識の高い先生がいる学校だけじゃ足りないよね。社会全体が持っておくべき知識なんだから。大人になって男女が同じ職場で働いたり、海外に留学して多様な人と一緒に学んだりする上でも絶対に必要になる。実際、留学先で悪気なく友人の外見を評価したり、性差別的な発言をしたりして周囲にドン引きされるみたいなことは珍しくないし。

太田 東京大学のシンポジウムに行く機会があって知ったんですが、いま東大では女性リーダー育成に向けた「UTokyo男女+協働改革#WeChange」という施策を立ち上げて、「教職員や学生を含む大学構成員全員の意識改革に取り組むとともに、女性教員増加率を過去10年の2倍とする」ことなどを目指しているそうです。すごいなと思いました。国際社会で日本がどう見られるかという観点でも、ジェンダー意識の遅れはマイナスだというのが常識として共有されてほしいですね。

親や教師に言えない悩みを抱えた生徒たち

太田 インセ*4、ミソジニーの暴走みたいな事件を見聞きすると心配にもなりますが、でも実際に中高生に授業をすると、前向きな反応も多くて希望が持てますよね。

アル 本当に。男子生徒が「性差別に反対する自分はフェミニストだと気づきました」なんて言ってくれると涙が出る(笑)。授業中は発言できなくても、後から話しに来てくれる子もいるんですよ。セクシュアリティにまつわる悩みを打ち明けてくれることもあるし。彼氏からセックスを求められて、断ると逆ギレされたという話をしながら泣いちゃう女の子とかも。性にまつわることって、親や先生よりも、私たちみたいな赤の他人のほうが話しやすいんだと思う。

太田 親には言えない相談ですね。彼氏が避妊をしてくれないとかもね。

アル デートDVって知ってる? と質問すると知らない子が多いんだけど、殴る蹴るの身体的な暴力だけじゃなくて、携帯の連絡先を消させるといった束縛系、セックスで避妊しないといったこともデートDVの一種だよと説明すると、自分が受けていたとか、友だちが経験してるって答えはかなり多いよね。

太田 知っておくことで「これは受け入れてはいけないやつだ」とわかって、誰かに助けを求めることもできますよね。

アル 一方で、一人ひとりはそうやって悩みを抱えていても、クラスの中で声の大きい男子がミソジニー的な発言をすると、まわりが萎縮して発言できないこともある。からかわれたり、笑われることが怖いんだよね。

太田 そういうのもホモソの悪い影響ですね。

アル そういう子が一人いると教室全体の空気が変わってしまう。たまに、後から「アイツが失礼なこと言ってすいませんでした」って代わりに謝ってくれる子もいるんだけど。

太田 なんていい子なの(笑)。

男子も女子もそれぞれにある「呪い」

アル ミソジニーに染まった生徒もいるけど、基本的には真面目ないい子が多いと感じます。「男の子は泣いちゃいけない、男なら我慢しろ、男なんだから頑張れと言われてきたよね」と言うと男子はうんうん頷いてる。自分たちが「男らしさ」の呪いをかけられてきたことは、多くの生徒が実感として持ってるよね。

太田 特にエリート校の生徒たちは、そこに行くまでの環境ですでに親や周囲の期待を強く受けてますよね。いい大学やいい企業に入ることが今の環境の延長であり目標、というのは暗黙のうちに、あるいは明確に感じてるのでは。そういうことも「女子枠」や「女子限定」みたいなアファーマティブ・アクショ*5への反発の背景にあるのかも。

アル 「逆差別だ」と。ネットでもリアルでも何億回も聞いてます。

太田 女子枠に対する反発は、女子生徒からも結構聞きますね。努力して合格したのに、女子枠だから入れたと思われたくないとか、なにかアンフェアな「得」をしてしまうのはよくないことなんじゃないか、みたいな。その気持ちもわかるんだけど、社会全体の偏りを是正していくための制度で、それによる利益は社会のみんなが受けるわけだからね。あなたの努力を上げ底だと言っているわけじゃない。

アル そう。個人を優遇するためではなくて、社会構造を変えていくためなんですよ。女性が働きながら子育てしづらいような職場環境や、医学や理工分野で女性が極端に少ない現状を変えることがゴール。日本の女子学生は理系の成績も世界一優秀なのに、理系に進む女子は少ない。女子に理系を選んでもらうためには構造を変えなきゃいけない。少数の女性が活躍したとしても、全体の数が増えないと構造を変える力にはならない。それを後押しするための過渡期の制度なんですよ。

太田 その理解はとても大事ですね。

アル 将来ジェンダー平等が実現して、何もしなくても男女が同数になる社会になれば、女子枠はめでたく廃止すればいいんだよね。

ジェンダーの話題に男性が感じる「居心地悪さ」

アル ある女子校の教職員向けの研修でお話ししたんですが、男の先生が「なんでジェンダーの研修なんか受けなあかんねん」とぼやいていたそうです。これが児童虐待やいじめ防止の研修だったら「なんで受けなあかんねん」とは言わないよね。やっぱりジェンダーの話になると、自分が責められているように感じて居心地が悪いんだろうな。

太田 そういうときに男性が、居心地悪さを感じたり、加害者のように言われるのは不当だという感情がわくのは、ある意味仕方ないとも思います。差別を指摘されたときにマジョリティ(多数派)が感じる居心地の悪さというのは、性差別に限らずあるものですから。

アル 文句言わず聞けよ! とは思うけど(笑)、話を聞いてもらうためには、男性が受けている抑圧やつらさに共感する姿勢は必要だと思う。「女の子は翼を折られ、男の子はケツを蹴られる」ってよく言うんだけど、周囲や社会からのプレッシャーを男子はすごく感じている。「女子は就職できなくても主婦になれるからいいよな」みたいな言説も、そういう恨みやつらみから出てると思う。

太田 彼らが今の性差別社会を作ったわけじゃないですからね。私も、あなたたちを責めてるわけじゃないよ、というのは伝えるようにしてます。完璧じゃない社会を変えるために、自分が持っているマジョリティの属性をどう使えるかを考えようって話だよ、みたいな。

アル 性別も生まれた時代も、自分で選べるものじゃないからね。

フェミニズムは実際に社会を変えてきた

アル 中高生からの反応で「フェミニズムって最近生まれた思想ですよね?」というのがあって。SNSだけ見てるとそう見えてしまうのかな。

太田 SNSで見えるものだけが世界みたいな認識だと、ありそうですね……。

アル 第一波フェミニズムというのが戦前からあってね……みたいなことをこんこんと説明して、100年以上続いてるんだよって教えるんですけど。

太田 NHK朝ドラの『虎に翼』も見てほしいなあ。ああいう風に、前の時代に生きてきた人が、小石を積むように前進してきたものの上にみんな生きてるんですよね。

アル その頃は女性に選挙権もなかったんだよって言うと驚かれる。それに、フェミニズムって女性の権利ばかり主張してるように見られるけど実はそうじゃない。例として、近年の刑法改正で強姦罪が強制性交等罪になって罪になる範囲が広がったんだけど、さらに不同意性交等罪に改正。それまでは男性がレイプ被害にあっても強姦罪は適用されなかった。だから、刑法が変わることで男性の性被害者も救済されるようになったんですよね。

太田 そうです。改正前の強姦罪は、とにかく「男性器を女性器に挿入すること」が構成要件で、被害者が女性でも肛門や口への挿入は当てはまらなかった(より法定刑が低い強制わいせつ罪にしかならなかった)。でも、被害者としては、挿入されるのが性器じゃなくて肛門や口でも、性的自由を侵害された苦痛の程度は同じですよね。刑法が制定されたのは100年前の明治憲法下で、審議した国会議員は100%男性だし、それを選んだ有権者も全員男性。その時代にできた条文が、つい最近まで運用されていたのも驚きですが。そういう刑法を改正まで持っていったのは、やっぱり主に女性たちの地道なロビイングや運動の積み重ねでした。

アル だから日本のフェミニズムも大きな成果を残している、男性にとってもいい方向に。あと、中高生にも身近な変化として知ってほしいのは痴漢対策の普及だね。入試当日を狙って痴漢をするという卑劣な行為が話題になって、鉄道会社や警察も積極的に防止に取り組むようになりました。「痴漢は犯罪です!」って今はそこらじゅうで見る標語だけど、逆に言えばかつては犯罪とみなされなかったわけだよね。「痴漢は犯罪」が常識になったことは大きな前進で、コツコツ働きかけてきた人たちの努力の成果だって知ってほしい。

太田 社会は勝手に変わるんじゃなくて、いろんな人の努力で少しずついい方向に変わってきたってことを若い人に実感してほしいですね。他人事じゃなくて、自分たちもプレイヤーなんだと気づいてほしいな。

旅先の英会話本みたいな実用書として使ってほしい

アル この本は私たちが選び抜いた49の質問に答えてるんだけど、ジェンダーの話をすると聞かれるテンプレ的な疑問はほぼカバーできてると思う。SNSのクソリプとか、モヤる発言をされて辟易してる大人の皆さんにも、想定問答集みたいに使ってもらえるんじゃないかな。

太田 そうですね。言われたらパッと言い返せるように、あらかじめ頭の中に入れておく。旅先の英会話本みたいに実用書として使ってほしいですね。

アル めんどくさいから日常でジェンダーの話をするのはやめようと諦めてる人も多いはずだから、この本を参考にどんどん言い返してください。じゃないと、SNSの悪弊でどんどん社会がミソジニーに傾いていってしまう。

太田 そうならないために、対抗する言葉を社会の中で増やしていきたいですね。この本がその役に立てば嬉しいです。

注釈
*1 出典:ニフティキッズ調べ
https://kids.nifty.com/parent/research/ryuukougo_20241102/

*2 メンズコーチ・ジョージ
http://www.youtube.com/@coachjoji

*3 出典:CNN
https://www.cnn.co.jp/tech/35239029.html

*4「非自発的な禁欲者」に由来する、モテない男性を自嘲的にさすネット上のスラング。

*5 アファーマティブ・アクション:社会的な差別による偏りを是正するための積極的な優遇措置。大学入試で黒人学生の枠を設けるといった例がある。

アルテイシア

あるていしあ●作家。
神戸市生まれ。国立大学卒業後、広告会社に入社。2005年『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。同作はドラマ化、漫画化された。ジェンダー、フェミニズム、性暴力、包括的性教育、毒親、家族、恋愛、結婚などをテーマに執筆。全国で講演や授業も多数おこなう。著書『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(共著)『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』等。

太田啓子

おおた・けいこ●弁護士。
2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手がける。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。性教育やジェンダーにまつわる子育ての悩みを書いた『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』は大きな反響を呼び、韓国・中国・台湾・タイで翻訳される。他の著書に『100年先の憲法へ 『虎に翼』が教えてくれたこと』等。

『男と女、どっちがずるい?
10代のジェンダー、49の疑問と悩み

アルテイシア、太田 啓子 著

3月26日発売・単行本

定価1,980円(税込)

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