青春と読書 本の数だけ、人生がある。 ─集英社の読書情報誌青春と読書 本の数だけ、人生がある。 ─集英社の読書情報誌

定期購読のお申し込みは こちら
年間12冊1,000円(税・送料込み)Webで簡単申し込み

ご希望の方に見本誌を1冊お届けします
※最新刊の見本は在庫がなくなり次第終了となります。ご了承ください。

本を読む/本文を読む

樋口恭介『21世紀を動かす思想 加速主義・プルラリティ・SFプロトタイピング』(集英社新書)を木澤佐登志さんが読む

[本を読む]

運命としての未来に抗う書

 未来に対する不安。不確実性の時代に生きている私たちは、未来を漠然とした不安としてしか触知できない。それは何かはよくわからないけど既に決定されており、ある日(だがそれはいつの日だ?)、突然私たちを大波のようにさらっていく。私たちは未来に対してどこまでも受け身でしかなく、未来に干渉し参与する術など想像すらできない。
 一言でいえば、本書は右のような「未来観」、言い換えれば未来をめぐるイデオロギー的布置に対する力強い抵抗として書かれている。本書のメッセージは次のテーゼに要約される。「未来は予測されるものではなく、創造されるべきものである」。このテーゼは、著者の二〇二一年の著作『未来は予測するものではなく創造するものである』の主張を引き継ぐものだ。著者の考えは一貫しており、その意味において信頼に値する。
 著者は「未来は単一である」という未来像に異議を唱える。未来は複数存在しており、しかも開かれている。誰に対して?―私たちに対して。イーロン・マスクのような一部の億万長者や権力者だけが未来を決定できる。そのような考えを著者は退しりぞける。未来は私たちによる能動的な参加を待っている。未来の記述や決定は個人的な意志の問題に還元されるのではない。それは集合的な想像力の問題に他ならないのだ。その意味で、本書は一人ひとりが未来を考えるための土台を提供してくれる格好の羅針盤となるだろう。
 未来を考えるための土台、すなわち、加速主義、プルラリティ、未来学、SFプロトタイピング……。それらに共通するのは「未来というテクストの解釈と再記述」をめぐる絶えざる格闘だ。それを通じて固定化された未来像を多元性の領野へと、未だ記述されたことのない未知の領野へと解き放つ。複数のオルタナティブを吟味し、私たちにとっての「望ましい未来」を選び取るための想像力=創造力。それは、「運命としての未来」に抗うことによってしか培われることはない。

木澤佐登志

きざわ・さとし●文筆家

『21世紀を動かす思想 加速主義・プルラリティ・SFプロトタイピング』

樋口恭介 著

発売中・集英社新書

定価1,100円(税込)

購入する

TOPページへ戻る