[本を読む]
人間だけではない世界の冒険旅行
椎名さんのSF世界は「生態系への意志」とでも呼ぶべき生命観につらぬかれているように思う。そこでは人間と、機械人間系の方々と、その他の生物と、ざっと三種類の存在たちが活躍する。半世紀に及ぶ作家生活の果てに産まれた本作もそうで、現実社会がAIとそれに合わせた人間中心ののっぺりした生態系へと囲い込まれてゆくかのごとき今日、この生命観はそれだけで貴重な倫理ではないか。
本書は連作短編集で、第二話「
なにしろ第一話「
〝灰汁〟と機械人間〝ガギ〟の変則バディものである「ニンゲン証拠博物館」(第五話)では、三人称一元から一+α元まで拡張されたような視点の移ろいが、〝人間率〟というテーマに呼応してスリリングな効果をあげている。〈おれと旅をしている間にお前は知らず知らずのうちに相当あちこち人間化している筈なんだ〉と、こんな言葉のとびかう小説はおもしろいに決まっているのである。
さらに、あとがきでは旅行家・椎名誠が登場し、その小説世界のリアリティのヒントを教えてくれるのだ。そこまで読み終えた人はきっと、もうしばらくは人間率を一〇〇%近くたもって生きてみよう、と元気づけられていることだろう。
前川仁之
まえかわ・さねゆき●ノンフィクション作家





