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一條次郎『おおきな口がまっている』を大森 望さんが読む

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声に出して読みたい異色の〝七五調〟小説

 現役の日本人作家を集めて“変な作風”コンテストを開いたら、一條次郎は優勝候補の最右翼だろう。ミステリー小説の新人賞の受賞作なのに、選考委員の伊坂幸太郎をして「ミステリーかどうか、そんなことはどうでもいい」と言わしめた『レプリカたちの夜』から十年。一條次郎はひたすら、妙ちきりんで面白い、ジャンル不明の小説を書いてきた。書き下ろしの新作『おおきな口がまっている』もその例に洩れない。
 中身は全六話の連作。第一話「そとはさむいよ」の舞台は警察署で、刑事たちが何人も出てくるが、話はおよそ警察小説っぽくない。なにしろドリーム警部は寝てばかり、オピウム巡査は押収品の大麻を吸い、マグナム巡査は拳銃をなめまわし、市長をかじり殺して逮捕された容疑者は巨大なうさぎ―という具合。読みながら思い出したのが稀代のダジャレ小説家・横田順彌のファンタジー連作『ポエム君とミラクルタウンの仲間たち』。同じ全六話だし、なにより本書にも(主役じゃないけど)ポエム巡査部長が登場するではないか。
 ただし本書では、一條作品らしく動物たちがフィーチャーされる。喋るうさぎ、ネズミ、犬、ワニ(の着ぐるみ)、プレーリードッグ……。第五話「たぬきの豆腐屋さん」では、たぬきに化けて豆腐屋を営んでいたアライグマが油揚屋のきつねに密告され、外来種として役人に厳しく追及される(意外と社会派です)。
 さらに可笑しいのは、七五調を多用した文体。たとえば第一話の追跡シーン。
〈ポエムの手をかり、歩道にあがる。歩道はやはり雪まみれ。足がぞくぞくはまりこむ。車道へ出ればこけまくる。寒すぎて息がしゃりしゃり凍りだす。鼻に氷柱ができそうだ。風雪が、ごうと鳴ったり、どうと舞ったり。右に左に吹きすさぶ。〉
 思わず朗読したくなる、なんとも楽しい名調子。軍記物でも浄瑠璃でもないからこそ、ついつい笑いがこみ上げる。話の中身に関わらず、読んでるだけでクセになる、この魔術こそ一條流。声に出して読みたい異色の名作だ。

大森望

おおもり・のぞみ●書評家、翻訳家

『おおきな口がまっている』

一條次郎 著

発売中・単行本

定価1,980円(税込)

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