青春と読書 本の数だけ、人生がある。 ─集英社の読書情報誌青春と読書 本の数だけ、人生がある。 ─集英社の読書情報誌

定期購読のお申し込みは こちら
年間12冊1,000円(税・送料込み)Webで簡単申し込み

ご希望の方に見本誌を1冊お届けします
※最新刊の見本は在庫がなくなり次第終了となります。ご了承ください。

本を読む/本文を読む

青木 おさむ『百年の挽歌 原発、戦争、美しい村』を田中優子さんが読む

[本を読む]

3・11と水俣
「貨幣による豊かさ」の限界を問う

「水俣と同じだ」と思った。
 本書は福島県飯舘村いいたてむらで、東日本大震災の後に一〇二歳で自死した大久保文雄さんとそのご家族のノンフィクションである。ご家族は文雄さんの自死から四年三か月後、東京電力を相手取って損害賠償請求裁判を起こした。
 私は何を、水俣と同じだと感じたのだろうか。基盤には、日本列島の海と山の豊かさがある。海辺の水俣には、漁師たちが不知火海しらぬいかいに出て行って漁をする日常があった。山と森には四季の自然が満ち、町には活気があった。
 一方、飯舘村は中山間地の高原にある村で、日本で最も美しい村のひとつと言われている。村の面積の七割以上を占める山々には、米や多種の野菜、山菜やキノコが実り、色とりどりの花が咲く。養蚕や葉タバコの栽培、そして酪農や畜産業にも力を注ぎ、「飯舘牛」はブランド牛にまでなった。
 人々はそれぞれの地域を大切にしながら力を尽くし、そこで十分に生きてきたのである。それ以上を望んだこともなかった。しかし水俣では人も動物も胎児も次々と激烈な病になり、漁は成り立たなくなった。一方、東日本大震災に見舞われたとは言え、飯舘村は山の中だ。津波で被災するような場所ではない。「あぁ、ちいっとばかり揺れたようだなぁ」というのが、大久保文雄さんのその日の言葉だったという。しかしその四日後、福島第一原発2号機から漏れ出たと思われる放射性物質が雨とともに飯舘村に降り注ぎ、計画的避難区域となる。つまりは、村を出て行かねばならなくなったのだ。文雄さんは最期まで村とともに生きるために、自死に及んだのではないか?
 チッソと原発。どちらも列島の実に豊かな自然環境と、それを基盤に何百年も続いてきた共同体の生産の日々を、たった一つの企業が破壊してしまった。貨幣による豊かさとは、自然と共に暮らすより「確か」で「恒久的」なものだと思わされてきたが、実ははるかに脆いものだった。こんなことがおきるたびに私たちはそれを実感している。

田中優子

たなか・ゆうこ●法政大学名誉教授、江戸文化研究者

『百年の挽歌 原発、戦争、美しい村』

青木 理 著

1月26日発売・単行本定価2,200円(税込)

購入する

TOPページへ戻る