[巻頭対談]
コバルト短編小説新人賞に背中を押してもらいました!
二〇二四年の本屋大賞受賞者、宮島未奈さんと、二〇二五年の同賞受賞者、阿部暁子さん。実はお二人には、デビュー前にコバルト短編小説新人賞に入選していた、という共通点が。その入選作が収録された『短編小説新人賞アンソロジー』の刊行を記念して、お二人にこれまでのこと、これからのこと、お互いのことを自由に語り合っていただきました。
構成=瀧井朝世

撮影=大西二士男
三浦しをんさんに影響を受けた二人
──お二人はそれぞれデビュー前にコバルト短編小説新人賞に入選されていますね。これまでに顔をあわせたことはありましたか。
宮島 阿部さんにはじめてお会いしたのは今年(二〇二五年)の四月、阿部さんが『カフネ』で本屋大賞を受賞された時の発表会でしたね。
阿部 はい。ステージ上で、前年の受賞者である宮島さんから花束をいただきました。
宮島 控室でご挨拶はしたけど主役の阿部さんは忙しいから、ゆっくり喋る暇がなくて。なので今回、お話しできて光栄です。
阿部 私もあの日、宮島さんだ! と思っていたのに、いろいろ目まぐるしくて、気づいたら夕方になっていました。
宮島 私も去年は余裕がなかったので、今年のほうが楽しかったです(笑)。会場を眺めて「三浦しをんさんがいる!」とか言って。
阿部 ステージの上から三浦さんに似た素敵な人がいるなと思っていたら、後からご本人だと聞きました。サイン欲しかった……!
宮島 私は写真撮ってもらいました。
阿部 いいなー。羨ましいなー。私、三浦しをんさんが好きすぎて、三浦さんが選考委員の賞に一生懸命応募したんです。三浦さんがせんだい文学塾にゲストでいらした時は岩手から新幹線で行って、最前列に座ってました。
宮島 阿部さんは、小説はいつから書き始めたのですか。
阿部 高校一年生の時です。高校受験の時に歴史の参考書を読んでいて、源義経と源頼朝の兄弟ってエモいなって思って。それで義経の話を書いて全国高等学校総合文化祭の文芸部門に応募したら入選のいちばん下にひっかかって、四行だけ講評がついたんです。私の書いたものを読んで何か言ってくれる人がいるのがもう楽しくて、そこから一生懸命書き始めた感じです。そのコンクールのほかに、三浦さんが選考委員だったコバルト短編小説新人賞に毎年応募していました。もともとコバルト文庫はいろいろ読んでいたんです。
宮島 私は小学三年生の時に作文を褒められて、もしかしたら才能があるのかもと思って小説を書き始めたんですよ。
阿部 ずいぶんはやかったんですね。
宮島 でも二十代で一回書くのを辞めたんです。それにはいろんな理由があるんですが、そのひとつが、三浦さんの『風が強く吹いている』を読んで衝撃を受けたことでした。「こんなすごいものは私には書けない」と思ったんです。三十代半ばに書くことを再開したんですが、それは森見登美彦さんの『夜行』がきっかけでした。『夜行』は表の世界と裏の世界が入れ替わるようなお話ですが、私も裏の世界では小説家になっているかもしれないと思ったんですよね。それでまた小説を書いて、女による女のためのR-18文学賞に送ったら最終選考に残ったんです。編集者からその知らせの電話がかかってきて話していたら、三浦しをんさんがコバルトのサイトで小説講座をやっているから読むといいですよ、と言われたんです。いまは『マナーはいらない 小説の書きかた講座』という本になってますけど、当時はウェブで連載していたんですね。それを読んでコバルト短編小説新人賞の存在を知り、応募した「二位の君」で入選しました。

2025年本屋大賞の発表会にて
デビュー後の阿部さんに訪れた作風模索の日々
阿部 私はいつもコバルト短編小説新人賞の作品がネットにアップされるとすぐ読んでいたんですよ。自分がもらった賞だということに関係なく、面白い作品が多かったから。「二位の君」も入選された時に読んで、すごく愛おしい作品だと思っていたんです。主人公たちの会話がすごくよくて、「ああ、青春だ!」って(笑)。
宮島 そんなリアクションをいただけるなんて、めちゃめちゃ嬉しいです。私、R-18文学賞には大人の恋愛小説を投稿していたんです。中学生の頃から『失楽園』とかを読んでいた子供だったし(笑)、テレビドラマもラブストーリーが主流な時代だったから、そういうものだと思っていたんです。でもさすがに今自分が書いているものはコバルトっぽくないなと思い、昔ワープロで書いていた頃のテキストデータから「二位の君」の原型になる話を引っ張り出してきて、改稿して応募しました。
阿部 よくデータを残してましたね。コバルト短編小説新人賞のおかげで「二位の君」が読めたってことですね。
宮島 その前のR-18文学賞が最終選考でダメだったので落ち込んでいたけれど、コバルトで入選したおかげで書き続けないともったいないなと思えました。だからコバルトに背中を押された感じがあります。阿部さんの受賞作「陸の魚」も、めちゃめちゃよかったですよね。水泳部の子の話で。
阿部 いやいや、昔書いたものの話は恥ずかしくて、もう耳から汗が出そう(笑)。
宮島 三十枚の中に無理なく世界が詰まっていて、この枚数でこんなことができるのかと思いました。
阿部 恐縮です。大学生の時、就活に疲れ果て、私は人間社会で生きていくのが嫌なんだよと思いながら大学のパソコン室でカタカタカタと短時間で書きあげたものです。
宮島 結構大勢の人が出てくるのに全然こんがらがらないし、しかも全員がちゃんと物語に必要な存在なんですよね。すごかった。
阿部 私はあの短編で入選したことに背中を押されて、卒業論文と並行してコバルトのロマン大賞に送る長編を書き始めたんです。
宮島 それがデビュー作となった『屋上ボーイズ』なんですね。
阿部 はい。でも、そこから暗黒時代がありまして。二〇〇八年に最初の本が出たんですが、売れなかったんです。当時の人気のテーマは〝ラブ〟だったんですが、私は宮島さんと反対で、恋愛小説は読むのは好きだけど書けないんです。だから、韓国ドラマを見たりハーレクインのロマンス小説を読んで勉強しました。
宮島 ハーレクインは私も読みました。田舎の書店でもハーレクインだけはあったので。あのレーベルは決まった型があるなかでいろいろ工夫があって面白いですよね。
阿部 そうなんです。それで、読んで自分の作風を模索したんですけれど、もがけばもがくほど泥沼で。もう小説を書くのはやめようと思っていた時に、オレンジ文庫が創刊されることになり、お誘いいただいたんです。きっとこれが最後になるから好きにやろうと思って書いたのが『鎌倉香房メモリーズ』で、運よくシリーズ化してもらい、やっと小説を書く楽しさを思い出しました。ただ、あのシリーズは「ライトなミステリーを書きましょう」と言われていたんですけれど、私、それまで一切ミステリーを書いたことがなかったんですよ。書き方が分からなくてすごく悩みました。それで、たまたま当時ツイッター上で知りあったミステリーの編集者さんに「ミステリーを教えてください」と連絡して、新幹線で東京まで行って、ミステリーとは何ぞやを講義してもらいました。
宮島 へええ。すごい行動力ですね。
阿部 本当に切羽詰まっていたんです。その編集者さんが後の『金環日蝕』の担当者です。
宮島さんのデビューのきっかけは思いきって書いた「中学生の話」
宮島 『金環日蝕』を読んで、阿部さんてこんなミステリーを書かれる方なんだと驚いたんです。経緯を聞いてなるほどと思いました。
私の場合は、デビュー前に、自分は世の中にどんな小説があるのか全然知らないなと思って、ひたすら小説を読みました。図書館でいろんな賞の過去の受賞作を借りたりして。分析するというより、どういうものが受賞しているか知るためでした。そのなかで、R-18文学賞の受賞作がどれもすごく面白かったんです。書き手に同世代の女性が多いせいか、書かれている悩みを自分に引き寄せて切実に考えられたので、それで私もR-18文学賞を獲りたいと思ったんです。
阿部 そして『成瀬は天下を取りにいく』の巻頭の「ありがとう西武大津店」でR-18文学賞の大賞を受賞されて。
宮島 R-18文学賞は一回に三編応募できるんですね。毎回、自分と歳の近い女性を書くことが多かったんですが、四回目の挑戦の時に、これまでとちょっと違うことをしようという気持ちになって、三編のうちの一編を思いきって中学生の話にしたんです。それが「ありがとう西武大津店」でした。今の自分が十代の子を書けるのかと思ったけれど、コバルトで「二位の君」で入選していたことが後押ししてくれました。その時のR-18文学賞も三浦しをんさんが選考委員をなさっていたので、本当にご縁があるなと思いました。
阿部 成瀬秘話が聞けて楽しいです(笑)。受賞後にシリーズ化が決まったのですか。
宮島 応募の段階では入選するかも分からないから、そういうことに意識は向いてなかったです。受賞して連作にしようと言われた時も、私は『成瀬は天下を取りにいく』一冊で終わると思っていたんです。そうじゃなかったら一作目で主人公を中二から高三まで成長させないですよ(笑)。成瀬の友達の島崎も引っ越しさせていなかった。
阿部 成瀬と島崎の話は永遠に読んでいたいです。続編の『成瀬は信じた道をいく』では島崎が引っ越して二人の間に距離ができていたけれど、だからこそのお話になっていて、すごく面白かったです。
宮島 三冊目の『成瀬は都を駆け抜ける』では、大学生になっています。
阿部 楽しみです!
──宮島さんはデビュー作でいきなり本屋大賞を受賞されたわけですよね。
宮島 業界のことを何も分かっていないまま神輿に乗せられていて、最近になってようやく冷静に周りが見えてきた感じです。それと、今後何を書いても、売り上げ面では『成瀬は天下を取りにいく』を超えられないなという感覚があるんです。それが嫌とまでは思わないけれど、今後どうしていくか、ちょっと悩みではあります。
阿部 私もいろいろ模索してきましたが、結局、書けるものしか書けないなと思っていて。
宮島 ああ、分かります。私もそう。
阿部 思いついたものを誠心誠意書いていけばそれでいいんだって、最近思うようになりました。あと、売れることはいいことですよ(笑)。宮島さんの『婚活マエストロ』も『それいけ!平安部』もすごくよかったです。「平安部」の
宮島 ありがとうございます。蹴鞠をやるのは決めていたんですけれど、あんなスポ根ものみたいになるとは思わず……。
阿部 それが面白かったんです(笑)。
書き進めながら物語が変わっていく〝ライブ感〟
──阿部さんの本屋大賞受賞作『カフネ』は、家事代行サービスに関わる二人を中心に、食べることについて切実なテーマがこめられていますが、出発点はどこにあったのですか。
阿部 あれは新型コロナが物語を変えたところがあります。最初は年の差のある女の人二人が、わいわいやっている話を考えていたんですけれど、リアルな世界がすごく苦しくなってしまったので、物語の中だけでもなんとかいい方向に転がせられないかなと思いました。食べるということは良くも悪くも我々と切り離せないものなので、あえてテーマに取り上げたところがあります。
宮島 物語の最後のほう、ああ、こんな展開になるのか、と思いました。
阿部 あれはかなり改稿しました。私はプロット詐欺師で、いつも最初に編集者に見せたプロットと、最終的に出来上がった小説はだいぶ中身が違ってしまうんです。
宮島 書き進めていくうちに物語が変わっていくんですね。それは、ライブ感があるってことですね。
阿部 わあ。ライブ感って、すべてをいい感じに美しく昇華してくれる言葉ですね。私、ライブ感、大事にしていきます。
宮島 作中に豆乳そうめんとか、いろんなレシピが出てきますよね。
阿部 あれは想像上の料理だったんですが、講談社さんがプロの方に頼んでレシピ冊子を作ってくれました。プロの方はすごいです。
宮島 タイトルもいいですよね。私、実際に「カフネ」という言葉使ってますよ。子供の頭をなでて「カフネ」って言ったりして。
阿部 素敵。最初の頃、担当編集さんが「カフネ」を流行語にすると言って結構使っていたんですけれど、最近とんと、使っているところを見ていません。
次は悪役にチャレンジ⁉
──お二人の書かれるものは、読者を前向きにさせてくれるというか、決して絶望に突き落とすような結末にしない印象がありますが、意識されていることはありますか。
宮島 私は現実なんて嫌なことばかりだから、物語の中くらいはうまくいってもいいじゃん、という思いで書いています。
阿部 私は何を書いたらいいのか分からなくなっていた頃に、『ハウルの動く城』の原作者でもあるダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの物語を読んだんです。そうしたら、人が魅力的だったんですよ。優しいとかではなく、悪だくみしている人までキュートなんです。私も、読んだ人に登場人物を気に入ってもらえる話を書きたいです。でも、今聞いていて、絶望の底に突き落とす話も書いてみたいとちょっと思いました(笑)。
宮島 私もなぜか悪役が書けないんですよね。私の小説は悪い人が出てこないと言われるけれど、自分が悪役とは向き合いたくなくて避けているんだと思う。でも、この先書くかもしれないし、それは分からないですよね。
──本屋大賞受賞後、生活や執筆に変化はありましたか。
阿部 宮島さんは大忙しでしたよね。
宮島 地域に密着している話だったので、滋賀県とのコラボでいろんなことをさせていただきました。始球式もやったし。でも、結局、書くものが劇的に変わったわけじゃないし、自分自身は変化はないかな。
阿部 そうですよね。私も、取材を受ける機会が増えたりはしましたが、本屋大賞をもらったのは『カフネ』という一作品なのであって、私自身に変化はないです。変わらず、死ぬまで小説を書いていきたいし、できたら面白いものを書けたらいいなと思っています。
──今後、どんなものを書きたいですか。
阿部 前から言っているんですけれど、いつか農業小説を書きたいんです。最近、毎年豪雨被害で農家さんが大打撃を受けているのが気になっていて、そういうところを調べてみたくて。それと、一般文芸を書くようになって、自分はやっぱりコバルト文庫やオレンジ文庫みたいなライト文芸もすごく好きだと実感しました。登場人物たちがテンション高めに掛け合いしているのが好きなので、またオレンジ文庫でも書かせていただけたら嬉しいです。
宮島 私はデビュー前の頃のように、恋愛小説も書きたいですね。いつか『失楽園』みたいなドロドロした恋愛小説を書きます。今すぐ書くと「成瀬」の読者さんたちがびっくりしちゃうから、長期的な展望です。
阿部 それ、めっちゃ楽しみです!

宮島未奈
みやじま・みな●作家。
1983年静岡県生まれ。滋賀県在住。京都大学文学部卒。2021年に「ありがとう西武大津店」で第20回女による女のためのR-18文学賞の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞し、23年に同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。24年に同書で第39回坪田譲治文学賞と本屋大賞を受賞。その他著書に『婚活マエストロ』『それいけ!平安部』『成瀬は信じた道をいく』等。

阿部暁子
あべ・あきこ●作家。
岩手県出身。2008年に「いつまでも」(刊行時『屋上ボーイズ』に改題)で第17回ロマン大賞を受賞し、コバルト文庫からデビュー。著書に「ストロボ・エッジ」シリーズ、「アオハライド」シリーズ、「鎌倉香房メモリーズ」シリーズ、『室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君』『パラ・スター』(全2巻)『金環日蝕』『カラフル』『カフネ』(未来屋小説大賞・本屋大賞)等。
収録作品
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「ゴミ屋敷のマイルストーン」
(第127回/二〇〇七年四月)
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「陸の魚」
(第130回/二〇〇七年十月)
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「みずいろサナギの伝説」
(第141回/二〇〇九年九月)
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「サカナ日和」
(第154回/二〇一一年十一月)
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「傾城の美女呂姫」
(第158回/二〇一二年七月)
●
「水恋花」
(第160回/二〇一二年十一月)
●
「靴磨きのボレロ」
(第171回/二〇一四年九月)
●
「灰色ハンスとにせもの侯女」
(第172回/二〇一四年十一月)
●
「ままならないきみに」
(第190回/二〇一七年十月)
●
「二位の君」
(第196回/二〇一八年十月)
●
「林ちゃん」
(第209回/二〇二〇年十二月)
●
「ホテルアムステルダムの老婆」
(第215回/二〇二一年十二月)





