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杉田俊介、西井 開、川口 遼、天野 諭『名著でひらく男性学 <男>のこれからを考える』(集英社新書)を清田隆之さんが読む

[本を読む]

語りの節々ににじみ出ている
著者たちの怒りや興奮が刺さる

 男らしさの問題を語ることには難しさがつきまとう。特権性や加害性を反省しても、生きづらさがあると訴えても、同性間の関係性を描写しても、交差する問題と重ね合わせて論じても、方々から様々な批判やツッコミが飛んでくる。最も声を届けたい層に届かなかったり、最も怒られたくない層から怒られたりすることもざらだ。だからとてもじりじりするし、ときに「極端なことを言ってバズりたい」という欲望にもかられる。そういう中にあって、「名著に学ぶ」というスタイルは一種の発明だと思った。めちゃくちゃ硬派でエキサイティングだった。
 元保育士の天野さとるが『ボーイズ─男の子はなぜ「男らしく」育つのか』(レイチェル・ギーザ)を、「ぼくらの非モテ研究会」の西井開が『男同士の絆─イギリス文学とホモソーシャルな欲望』(イヴ・K・セジウィック)を、批評家の杉田俊介が『男性神話』(彦坂諦)を、男性性研究の川口遼が『マスキュリニティーズ─男性性の社会科学』(レイウィン・コンネル)を紹介していく本書は、専門家としての巧みな解説と、それぞれの個人的な問題意識とが両輪をなして展開していくところに特徴がある。男の子が雑に扱われている問題、「進歩的な男性」という厄介な権威性、男性たちが抱える「感覚鈍麻」の問題、「キモい」と言われることへの恐怖や傷つき……。どれも切実でヒリヒリするもので、現代的なテーマだなって思う。それと同時に、古いものだと30年以上も前の本で、古典の普遍性を改めて思う。
 トーンは慎重かつ真面目で、全体的に誠実な本という印象だ。しかし個人的には、語り合いの節々ににじみ出る著者たちの怒りや興奮がすごく刺さった。名著の先見性に痺れ、個々の問題意識が結びつき、思いもよらなかった方向に話が展開していく。発見と再確認、内省に憤り、ケアや共感……こんな語り方があったんだ。4人の専門家が学びと揺らぎの中で展開していく本書は、男性学の入門書としてとびきり頼もしい。

清田隆之

きよた・たかゆき●文筆家、「桃山商事」代表

『名著でひらく男性学 〈男〉のこれからを考える』

杉田俊介、西井 開、川口 遼、天野 諭 著

発売中・集英社新書

定価1,089円(税込)

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