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梅村由美 文、山口 晃 画『ヒゲのガハクごはん帖』を橋本麻里さんが読む

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文と画のノリツッコミ!

 食べ物にたとえるなら、町内の餅屋さんが長年ご夫婦でつくっている、〈おはぎ〉のような本、だろうか。親しみ深い、安心できる味でありながら、素人ではこうはならない、というエッジが絶妙に立っている。いまだに経木きょうぎに包んでくれるところも、味わい深いお手製の掛け紙も、つくづく「らしくて」いいのよね……。
 何の話をしているのかというと、梅村由美(文)+山口晃(画)による『ヒゲのガハクごはん帖』である。慌てて言添えておくと、当然餅屋夫妻のエッセイではなく、「ガハク」こと現代美術作家の山口晃によるエッセイ漫画『すゞしろ日記』(羽鳥書店)でお馴染み、「カミさん」こと梅村由美の「執筆デビュー」作。いわば『すゞしろ日記』のB面、いや両A面と言うべき、カップリングエッセイなのだ。本書にはWebメディア「MONONCLEモノンクル」での連載のうち、2022年11月〜2025年4月公開分から17タイトルが収録されている。
 内容は直球でタイトルどおり。アトリエにこもって作業することが多く、それゆえに気分転換ややる気スイッチとなる「ごはん」&「おやつ」への愛着(執着?)が強いガハクと、その世話役として時に振り回され、時にガハクを振り回すカミさんの、日々のピザトースト風朝食から、定番酒肴「△△ポテ」レシピ、二人にとって居心地のいいレストラン、そしてヴェネツィアやバレンシアなど海外出張先で出会った印象深い食べ物までが、小気味よく文と画で綴られる。そしてもちろん、「画が文を補完」式であるはずもない。年末の大掃除をめぐる章では、カミさんが「ガハクと私は、大掃除というと『めんどくさい!』とげんなりするのと同時に、懐かしくもさみしい気持ちがわき起こる」としっとり書いている横で、ガハクはのうのうと「大掃除 私はどちらかと言えば好きである」「カミさんはそうでもないらしい」などと挿画だけでなく描き文字でツッコミを入れている。そう、〈おはぎ〉の美味しさの半分は、カミさん主観(文)とガハク主観(画)のコール&レスポンス、店主夫妻のノリツッコミでできている。町内の常連客は今日もにこにこしながら、口の中のあんこを嚙み締めるのだ。うん、やっぱりおいしい。

橋本麻里

はしもと・まり●学芸プロデューサー

『ヒゲのガハクごはん帖』

梅村由美 文/山口 晃 画

発売中・単行本

定価2,310円(税込)

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