[本を読む]
被害者の声をどう受け止めるのか
『犯罪被害者代理人』は、今の日本に必要な一冊だと感じる。大きな事件の報道をメディアで目にすることはあっても、被害者や遺族がどんな気持ちで法廷に立っているのか、どれだけの葛藤を抱えているのかを知る機会はほとんどない。
池袋暴走事故の被害者家族である松永拓也さんの陳述書は、とりわけ心に残った。松永さんが遺族として意見を述べる場面には、家族への深い愛情と、取り返しのつかない喪失に対する絶望感がにじむ。メディアを通して知ることのできる断片的な映像や言葉では決して伝わらない、声にならない心の揺れは、私たちが知るべき事実として横たわる。想像を絶する痛みの中で振り絞られた言葉は、風化させてはならないものだと強く感じる。
同時に、本書はメディアの弊害についても鋭く描いている。知る権利の名の下に、誰かの心の安全が置き去りにされる現実を、私たちはもっと自覚する必要がある。
そして、被害者へのケアの少なさは深刻だ。地域や制度によって支援が行き届かず、取り残される人は少なくない。本書で取り上げられる人々は、まさに制度の不十分さにより孤独を強めていることもあり、心理職として私が時に直面する「孤立する被害者」の姿と重なる。制度というものは本来、実態に沿ったものでなくてはならない。ただでさえ苦しみを抱える人々に、自己責任としての重しを載せてしまうような制度は不要なのだ。
さらに、日本は加害者への臨床的アプローチでも他国に遅れている。被害者支援と同じように、加害者の背景を分析し、再犯を防ぐ仕組みを整えることは、社会全体の安全に直結するはずだ。これは司法だけの問題ではなく、国が責任を持って取り組むべき課題だと強く感じた。
本書は、こうした課題を実感として伝える一方で、法の世界の専門的な話を越えて、「人の心にどう向き合うのか」という問いを私たちに投げかけてくる。被害者の声をどう受け止めるのか。加害者を生み出さない構造はなにか。そのどちらも欠かすことはできない。読後に残るのは、誰かの痛みを想像し、その声に応答する社会をつくりたいという切実な思いだった。
みたらし加奈
みたらし・かな●公認心理師・臨床心理士