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海野 聡『宮殿の古代史 飛鳥から藤原、平城、平安へ』(集英社新書)を桜井俊彰さんが読む

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宮殿の「三要素」を知っているかい?

 東大寺の大仏が好きで毎年、最低一回は東京方面から奈良に向かう。で、難波から乗った近鉄電車が大和やまと西大寺さいだいじを過ぎると、車窓から重厚な瓦葺かわらぶきの、朱塗りの柱が見事な、壮麗な建物が見えてくる。復元された平城宮の大極殿だいごくでんである。毎回子供のように車窓に張り付いて見えなくなるまで眺めているのだが、実はこの復元建築物は平城京の前期に存在したいわゆる第一次大極殿で、平城京の後期には新たな第二次大極殿が建てられていたという。
 こういうことを含め、わが国のいにしえの時代に存在した一つ一つの宮殿について、いろいろ教えてくれるのが本書である。だいたい古代の建物に関しては、法隆寺や薬師寺の伽藍がらん配置がどうだとかの、寺院建築に関係する書籍は様々に目にするが、宮殿について書かれたものは極端に少ない。第一、寺社のように昔の建築物が残っていないから見に行きようがない。ゆえに本書はたまらなく貴重であり、かつ嬉しい。
 そもそも、古代における宮殿とは何か。本書は語る。それは天皇を中心とした国家を形成するため、その権威を示すべく造られてきたものであると。理想の形を目指し、ヤマトの時代から推古女帝と摂政聖徳太子の飛鳥時代、天智・天武朝の時代、藤原京から平城京、そして平安京へと、さまざまな宮殿が築かれた。その道程は唐にならった先端の律令国家を造ろうとするわが古代国家の、能動的な東アジア外交の成果でもある。こうした努力の一つの結実が、天皇の即位や元日がんじつ朝賀ちょうがなどを行う「大極殿」、政務や饗応きょうおうをこなす「朝堂院ちょうどういん」、天皇の私的な居である「内裏だいり」の、宮殿三要素を備えた平城宮だった、ということだ。
 有り難いのは古代の各宮殿がどうあったのか、それがよくわかる図面等が本書には多く載っていることだ。また単なる古代宮殿の建築史の書ではなく、当時の歴史の流れが要所に記されていて、宮殿が辿ってきた道を知る上で参考になる。本書は古代宮殿史を含んだ日本古代史の一冊でもある、といったところか。各方面にわたる著者の深い知識がわかる新書である。

桜井俊彰

さくらい・としあき●歴史家・エッセイスト

『宮殿の古代史 飛鳥から藤原、平城、平安へ』

海野 聡 著

発売中・集英社新書

定価1,309円(税込)

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