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菊池志乃『「考える腸」が脳を動かす』(集英社新書)を田近亜蘭さんが読む

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脳と腸の支えあいの新常識

 著者の菊池志乃さんは2年前まで、私と同じ京都大学大学院医学研究科健康増進・行動学分野に所属していました。消化器内科専門医として大学病院で忙しい臨床業務をこなしながら、本書で紹介されている、「過敏性腸症候群に対する認知行動療法のランダム化比較試験」を自ら企画して完遂し、その成果は海外の著名な医学雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・ガストロエンテロロジー」に掲載されて高い評価を受けました。
 こういった臨床試験を実施すること自体が大変な労力を要するのですが、菊池さんは試験で使用する患者さん向けの「テキストブック」(認知行動療法の練習帳)を、腸のしくみ図や不調のケア法に関するイラストまで、すべて自ら手作りする徹底ぶりでした。
 現在は名古屋市立大学に異動し、さらにその研究を続けています。そんな“消化器愛”が深い菊池さんが、「腸の自律と脳の思案の相互作用」について著したのが本書です。
 ページを開くとまず、脳と腸の関係がさまざまな角度から示されています。腸は単に脳の下請けとして働く臓器ではありません。自分で考えて判断して、脳に「腸もほかの臓器もいまこんな状態ですよ」と報告し、「つきましては全身にこのような指令を出してはどうですか」と提案します。
「脳は本社、腸は支社」のたとえが明快です。優秀な支社が本社に情報や指示を送ることで、体の安定性が保たれます。これが「脳腸相関」であり、神経系、内分泌(ホルモン)系、免疫系、腸内細菌叢さいきんそう(腸内フローラ)が脳と腸の橋渡しになることがわかりやすく述べられています。そしてこの脳腸相関が崩れることが、いくつもの病気と関わってきます。
 菊池さんは、本書でも帯のイラストと本文の図まで自分で描いたと聞きました。そんなことは普通、できません。しかし、菊池さんのこだわりを知っている私としては「さもありなん」です。専門的な内容でも、菊池さん独自の比喩や自前のイラストを駆使して、グイグイとアップデート情報を語り進めていきます。
 腸という地味な臓器が、実は体の重要な指令系統を司っている……。体に潜む脳腸の世界にぜひ触れてみてください。

田近亜蘭

たぢか・あらん●京都大学大学院医学研究科准教授

『「考える腸」が脳を動かす』

菊池志乃 著

発売中・集英社新書

定価1,100円(税込)

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