[本を読む]
新時代を担う建築家による痛快な一冊
建築は、とかく堅く重厚なものだと思われている。ところが永山祐子の建築は、色や光が降ってくる錯覚を覚え、見る人の内観に流れるような
絵本を通して感じた時空間のスクロール体験、スイスの峻厳な山々へ
一方で、読んでいて舌を巻くのは、彼女の粘り強さだ。建築家はアーティストとしてヴィジョンの提案者であるだけでなく、関わる予算も人員も巨大なプロジェクトゆえ、膨大なコミュニケーションが必要。本書のなかには「しれっと」「粘り腰」「いったん引く」など、プロジェクトを動かす際の彼女の実務能力の異様な高さを物語る言葉が頻出する。たとえ摩擦が起こってもその人の本来の望みは何かと裏を読む、困難が起こっても場を変えて同じプランを出せば通ることもあるなど、彼女のコミュニケーターとしての力は破格だ。難しい事態が起こっても、「海を眺め」るように「海面はまあまあだな」と思うなど、あっけらかんとしており、まさに大局観とでもいうべきものがある。
しかも年子の二人のお子さんを抱えてからより一層、超高層ビルや万博など、世界規模のプロジェクトを成立させていく姿は痛快でさえある。
意義深いのは、現在彼女が進めている建築部材のリユースだ。建築界に一石を投じる、実に希望を感じる手法である。画期的なアイデア実現の裏には、人の力を最大化する技術、つまり相手への尊敬と人に任せる度量がある。チームワークやコーチングの本としても読める裾野の広い一冊だ。
中村佑子
なかむら・ゆうこ●映像作家