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幕末を支えた“異端者”の足跡を追う
開国以前、唯一の開港場であった長崎に近い西南雄藩が、早い段階から異国の技術や文化に接し、これを取り入れてきたのに比して、幕臣たちはなお刀槍の鍛錬に終始していた。外交においても、為替レートをはじめ異国側の強弁に屈する始末。そんな中、日米修好通商条約批准のため、米国に渡った小栗は、近代化の必要性を強く意識し、帰国後実践していくのである。
この小説が、いわゆる組織内での出世物語に終わらないのは、役職に違和を覚えるやすぐ役を辞す、または罷免される、という小栗ならではの「仕官ループ」に
評伝でありながら歴史解説書としても綿密な、童門冬二ならではの描き方が、小栗という幕臣にあっては異端な、しかし歴史の流れの中で見ると、有能で先見性のあった男の真価を浮かび上がらせている。小栗は、明治期に中央政府が為した近代化をどう見たろうか――そんな想像を禁じ得ない、彼の活躍を知るに必読の書なのである。