[本を読む]
「理解したいという努力」の「圧」。
あきらめないという「希望」
バイセクシュアルの一人息子・アレックスから突然「自分はノンバイナリー。男でも女でもないし、男でもあり女でもある」と打ち明けられた著者・アミアの奮闘を描いた本作。以前からゲイの友人が書いた自伝など、当事者発信の作品には触れてきましたが、親の立場からの著作は初めてで、共感すると同時に反面教師として学ぶシーンもたくさん。例えばアレックスが初めてスカートをはいて登場した時。著者は「動揺してるのは私だけ⁉」「コレ、褒めたほうがいい?」と、言葉にできず脳内は大パニックになったり、自分の性的トラウマとトランスジェンダーのトイレ問題を混同し、うかつな発言をしたために、アレックスのパートナーに大激怒されたり。それでもあきらめないアミアとともにLGBTQ+の知識も更新しながら、一気に読了しました。
本作は、ジェンダーを入り口にした、相互理解と対話の可能性についての普遍的な物語。著者のリアルな混乱と苦悩の奥にある「愛する人のことが理解できない」「努力して勉強して、理解さえできたら安心できるはず」、というシンプルな感情。それは、愛情の発露であると同時に自分本位な、ある種の圧を伴う暴力的なものでもある――震えるようなシーンがたくさん描かれますが、誰しもがふりかざしがちな「圧」について自覚できたことは、なにより思春期の子どもを持つ親として大きかった。
個人的には、LGBTQ+とは〝自分の違和感を自覚して立ち向かっている人たち〟、その違和を社会の中で言葉や行動に移し、あるいは移そうとしている人たちなのではと思っています。アミアがアレックスを質問攻めにして「必ずしも理解できないことがあるということをわかって」とキッパリ言われる場面があります。全編を通じて、アレックスをはじめとする若者のリアクションには大いなる希望を感じますし、世界を変えていくヒントになりうるのではないかと。最終章の爽やかさはとってもよかった。子のあるなしにかかわらず、ハラスメント対策に携わるような企業人にも読んでほしい一冊です。
(談)
ひうらさとる
ひうら・さとる● 漫画家