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林 博史『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか』(集英社新書)を平良次子さんが読む

[本を読む]

悲惨さと同時に極限で
生きようとする人間の力強さを確信

「これでもか、これでもか」と沖縄戦のことを伝える書籍や話題が絶えないのには、どう考えても理由があるのだ、とこの本を読んでまず納得する。
 歴史をひもとくとき、特に戦時中の隠された真実が時間を経て明らかにされていくのは、研究者たちの執念と信念の賜物であり、今の私たちが生きる社会への警鐘でもあると実感するのだ。その絶え間ない鐘の響きが私自身の心の片隅で消えない、なんともいえない戦争と平和への感情の塊をはぐくんできたのかもしれない。
 目次に目を通せば、そのサブタイトルの「なぜ20万人が犠牲になったのか」という問いかけへの答えを見つけ出すのにあまりある項目が並んでいる。そして、おびただしい数の参考文献。
 本書は一般住民の「生きる権利」を抑圧した軍組織の思想や不条理を叙述すると同時に、刊行されている沖縄県の各市町村史の『戦争編』より生々しい具体的証言を数多く引用している。戦死者からはその命の処遇、無念さを、彼らに死を強いた日本国家と軍の責任を、そして、その状況に抗した生存者・体験者の経験を、もっと学ぶべきだ、と警告するのだ。
 第4章の「戦場の中の人々」では、生きることを選びとった民間人の事例を多く紹介している。米兵との通訳を果たした移民帰りの沖縄出身者たちによる説得で死を拒否した者。また、皇民化教育を受けていない世代で武器をすべて捨て、投降を促した年配の人たち。軍から死を強制されても無邪気に「生きよう」といった子どものことばに考え直した親。ここに集められたその人たちの行動や証言は、今を生きる沖縄の人たちにとっても命への認識を深められるものだ。
 第5章では沖縄戦の結果として現在に続く米軍基地問題、歴史認識や研究も紹介し、「戦後日本社会の病理」にも踏み込んでいる。戦後80年。多くの命を奪った歴史についての本だが、同時に極限的な状況で生きようとする人間たちの力強さを確信でき、新しい平和学習の視点を展開できそうな希望の書籍でもあると思った。

平良次子

たいら・つぎこ●対馬丸記念館館長

『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか』

林 博史著

発売中・集英社新書

定価1,243円(税込)

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