[本を読む]
『おくのほそ道』の旅を
門人の視点で描くロードノベル
奥州、北陸をめぐった松尾芭蕉の紀行文『おくのほそ道』は、中学の国語の教科書に掲載され、ゆかりの地を訪ねるツアーが組まれるなど今も人気が高い。
関口尚の初の歴史小説は、門人として唯一人、芭蕉に同行した
そのため本書は、二人の旅をトラブルも含めてユーモアを交えながら描く良質なロードノベルとなっている。名所旧跡にまつわる故事や関連する文学作品への言及も少なくなく、本書を読むと物語の舞台に行ってみたくなるのではないか。
芭蕉は旅先の俳人と交流し、旅費を稼ぐため俳諧興行を開くこともあった。これは前の句を聞いて別の人が句を付け参加者全員で風流を作るものなので、個性を主張するうまい句を詠みながら、全体の調和も考えなければならず、この駆け引きが生む緊迫感は圧倒的である。また各地の俳人と
こうしたやり取りを通して、芭蕉の人生はもちろん、漢詩、儒学、仏教などを取り入れ俳諧を革新した蕉風とは何かが明らかになっていく。さらに、芭蕉が『おくのほそ道』にフィクションを入れたのはなぜか、曾良が旅の途中で別れたのはなぜかに独自の解釈を与えたところは秀逸な歴史ミステリになっており、俳諧が好きな読者は特に楽しめるはずだ。
歌枕をまわり自身の俳諧を完成させたい芭蕉だが、俳諧以外に興味はないので、旅のルートを考え、旅費のやりくりをするのは曾良の仕事になる。天才に振り回されている曾良が、
俳諧の才では
末國善己
すえくに・よしみ●文芸評論家