[本を読む]
なんともユニークな幕末妖怪ファンタジー
時は幕末。物語の主人公は、八代目・山田朝右衛門(刀剣の試し斬り役を務める山田家の当主は代々〝浅右衛門〟だが、六代目と七代目は〝朝右衛門〟を名乗った)。
公務として数え切れないほど多くの死刑囚の首を斬ってきた朝右衛門だが、今日ばかりは勝手が違う。
というわけで、本書は死神に憑かれた八代目・山田朝右衛門が不老不死の怪人・服部半蔵(自称)とタッグを組んで怪異の謎に立ち向かうホラー時代劇。いやむしろ、風変わりな幕末BLものかと思って読んでいると、安倍晴明の子孫を自称するすっとぼけた庶民派の陰陽師(
著者の藍銅ツバメは、人魚と人間の恋を描くラブコメ時代ファンタジー『鯉姫婚姻譚』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、2022年にデビューした新鋭。ユーモアとシリアスを絶妙にブレンドしたなんとも独特な作風は、第二作となる本書でも健在だ。
大森 望
おおもり・のぞみ●書評家、翻訳家