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禍々 しく魅惑的な古代ファンタジー
『なんて素敵にジャパネスク』などで知られる氷室冴子が、90年代に手がけた伝説の古代ファンタジーが今、装いも新たによみがえる。
ある日、真秀は御影が
本作は「コバルト文庫で刊行されていた少女小説」や、「コミカルな作風を得意とする氷室冴子」という先入観を持つ人にこそ読んでほしい作品だ。『古事記』をモチーフにした物語は、骨太な歴史小説としての一面を持ち、真秀の過酷な運命や宿命の恋とともに、和邇の日子坐や真秀の異母兄である
幾世代にもわたる愛と憎しみの連鎖の中で、真秀はその体一つを武器に、愛する人々のため傷だらけになりながら闘う。己の心を決して他人に支配させない強さと、何があっても生き延びようとする強烈な意志は、時を超えて読者の心を撃ち抜くだろう。氷室冴子が手加減なしで挑んだ、超弩級のエンターテインメント小説。今こそ多くの人に届いてほしい、禍々しくも魅惑的な物語である。
嵯峨景子
さが・けいこ●書評家