[本を読む]
「秘密」の中身以上に、
「秘密」を取り巻く心情を
友井羊の『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』は、
同じ高校を舞台にした姉妹編『放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密』には、新たな語り手が二人いる。二年生で初めて同じクラスになった、
サブタイトルの「うつむきがちな探偵」は、結を指している。彼女は極度のあがり症、社交不安障害なのだ。事件の真相を見抜いても、「名探偵みなを集めて『さて』と言い」なんてことは到底できない。しかし、夏希一人に対してであれば言える。超行動派ゆえにトラブルメーカーでもある夏希は、真相を聞き届けた後でどんな行動を起こすか? 全八話は謎のバリエーションはもちろん、事件の顚末のバリエーションにもこだわっている。
夏希――「駆け抜ける少女」には、「秘密」が埋め込まれている。「秘密」の中身を、おそらく中盤あたりで見抜く読者もいるかもしれない。本作は、「秘密を知る」という推理小説的快感以上に大事にしているものがある。第三者にとっては「秘密」を抱えた存在と、当事者にとっては「秘密」を抱えた自分と、どう付き合うかという葛藤の描写に主眼を置いているのだ。あえて「秘密」が開示される驚きを前倒ししたうえで、「秘密」を取り巻く登場人物たちの心情を重視した点に、著者の誠実さが光る。と同時にその選択は、一人の人間の内なる複雑さ、他者と共にあらざるを得ない人間存在の弱さと強さを表した「小説」として、本作を一回りも二回りも大きなものにしたと思うのだ。
吉田大助
よしだ・だいすけ●ライター