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明日からすぐできる
哲学対話マニュアル決定版
哲学対話を通じて民主主義と共生社会を育てよう! 《保育園、幼稚園、小・中学校、高校、大学、企業、市民グループ……で、のべ何千人》と対話を実践してきた著者三名による教科書。
「本質観取」は哲学者フッサールの言葉。いかめしいが、本書によると、ことがらの大事なポイントを取り出す共同作業のことらしい。人間はみな感じ方も理解や意見も違う。でも話し合ってみると共通点がみえてくる。対話してみて、合意点がみつかる場合を体験できるのだ。自信をもって社会を築く原点になる。
本書の第一部は理論編。フッサールの現象学を竹田青嗣氏がどう読み解き、それが哲学対話にどう結びついたのか。中高生にもわかりやすい語り口である。
後半の第二部・実践編が本書の読みどころだ。すぐれた哲学者はみな本質観取の名人だった。コツさえわかればむずかしくない。0.テーマを決めて、ルールを確認する→1.問題意識を確認する→2.具体例を出す→3.キーワードをみつける→4.本質を言葉にする→5.最初の問題や途中の疑問に答える、の順で進める。ルールは、互いを認め、耳を傾けて、共通了解をさぐり、沈黙を尊重する。安心して話せる場をつくる。対話の実例が豊富なので、理解が進む。
司会(ファシリテーター)の役割も重要だ。参加者と一緒に問題を考える。場を信頼し、無理に議論を引っ張らない。注意点がリストにまとめてあり助かる。
本質観取のほかに、
P4Cは、子どものための哲学対話。アメリカで始まって、小学校で広く実践されている。合意形成を目的にしないので、問いの立て方や議論の進め方が自由だ。ぬいぐるみを手にして発言し、それをぐるぐる回すやり方をよく使う。
SDは、ソクラティック・ダイアローグ。時間をうんとかけ、ソクラテスのように実例を深く掘り下げて合意を形成する。司会や議論の進め方が少し違う。
とにかく本書は、わかりやすくて面白い。哲学対話に興味のある学生諸君や教員の皆さんは、ぜひ手にとってほしい。すぐにも対話を始めたくなるはずだ。
橋爪大三郎
はしづめ・だいさぶろう● 社会学者





