[本を読む]
武家社会の〈枠〉に搦 め捕られる女たち
神山藩シリーズを始めとする静謐な武家もので知られる砂原浩太朗が、挑戦を続けている。『夜露がたり』(新潮社)で初の市井ものを書き、『浅草寺子屋よろず暦』(角川春樹事務所)では武士と町人の交流を描いた。昨年末刊行の『冬と瓦礫』(集英社)は現代小説だ。
そんな砂原の新たな挑戦が本書『武家女人記』である。お得意の武家ものではあるが、収録作すべて女性視点なのだ。
武家の娘が心無い噂の的になる「ぬばたま」、勘定方の夫の秘密に心を痛める妻を描いた「背中合わせ」、下男に惹かれてしまう奥方の「嵐」。
「緑雲の陰」では側室の子を跡取りにすることになった大名家の正室の葛藤を、「深雪花」は舎密学(化学)への興味を持ちながらそれを抑えるしかない武家の娘のジレンマを、「
すべてに共通するのは、この時代の女性の無力さだ。個々を見れば、信念を持つ者も夢を持つ者もいる。だがこの時代の女性は、特に武家の女性は、「こうあらねばならない」という極めて強い枠組みの中にいた。そこからはみ出すことはできない。そして実際、七篇の主人公たちは皆、その枠組みの中で悩み、動き、そして耐えるのである。
作品によっては
物語の構成も一話ごとに工夫が見られる。特に「あねおとうと」はミステリとしても上質だ。一作ごとに作品の幅を広げる著者の、新たな顔をご堪能あれ。
大矢博子
おおや・ひろこ●書評家





