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酒井順子『消費される階級』
を上野千鶴子さんが読む

[本を読む]

「斜陽日本」の不適切な変化

 酒井順子さんは時代の転機を読み取るアンテナが鋭い。
 子どもが生まれないことを社会が問題化しつつあるときに、『少子』を書いて、女には子どもを産まない理由がある、と喝破した。
 非婚おひとりさまが増えつつあるときに、『負け犬の遠吠え』を書いて、負け犬・勝ち犬論争ブームを起こした。
 両親亡き後、兄ひとり妹ひとりの酒井家が、たったひとりの姪を残して跡が絶えることを『家族終了』と呼んだ。いずれも多くの読者が「あるある」感を抱いて、共感を呼んだ。
 酒井さんは辛辣な社会観察者だが、同時に変化をありのままに受け容れて、しれっと肯定するしたたかさも持っている。
『負け犬の遠吠え』に「負け感」はみじんもなかったし、『少子』の理由は、「痛いから」というあっけにとられるものだった。『家族終了』にも悲愴感はない。
 酒井さんは『百年の女『婦人公論』が見た大正、昭和、平成』を書いたあたりから、歴史に傾いてきたように思う。酒井さんも57歳、かつての「オリーブ少女」ももう若くない。
 自分が生きてきた半世紀ばかりの時代の変化を、縦横無尽に論じたのが本書だ。人が流行に弱く、時代に流され、権威に憧れ、他人を差別する……生きものであることが、世相の移り変わりと共に活写される。話題を呼んだTVドラマ「不適切にもほどがある!」がわずか40年のあいだの日本社会の変化を戯画化して描いたように、かつての『男尊女子』から「大黒柱妻」へ、「モテ格差」から「推し活」へ、「かっこいい」から「ダサみ」のあるコスプレへ、「ブス、チビ、メガネ」差別からルッキズム批判へ……なにしろ同時代を生きてきたのだから著者にはその両方が体感を持って理解できる。本書はほとんど歴史書と言ってよい。
 その背景にあるのが「斜陽日本」だ。シニカルで辛辣な著者の視線は、日本の落日をどう見届けるだろうか? それを読める頃には、わたしがこの世にいないだろうことが残念だ。

上野千鶴子

うえの・ちづこ●社会学者、東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長

『消費される階級』

酒井順子 著

6月26日発売・単行本

定価 1,870円(税込)

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